第33話
この日の仕事は順調……とは言い難かった。
営業回りはさほど苦ではないけれど、例のラフランスのプロジェクトの内容を考えると、これがさっぱりアイデアが浮かんでこない。
次の会議は来週のこの日だ。
一週間である程度通る企画をプレゼンするためのアイデア集めが難航している。
プレゼンは各三部著がそれぞれアイデアを出し合って代表一名が発表することになっている。競争形式で、採用された部署はその部の成績になる。
だから……ううん、今朝あんな言われ方したからね。あいつらには負けたくない。その思いだった。
だけど…
特にうちの部はほとんどが外周りだから部員が顔を合わせることも少ないし、打ち合わせすらできない。
定時の18時を過ぎても、私はPCとにらめっこ。
「自然との融合だから、やっぱり緑が基調で…?いやいや、ありきたりだ。家具やインテリアを全てウッディに……てのもなぁ~」
ひとまずインテリアを諦めて、私は薔薇のことを調べることにした。
「薔薇って言えば普通に赤やピンクだよね」
でもこれもやはり捻りがない。華やかなのは確かだけど。
一応他も色々調べてみた。白や黄色もあるみたい。
その中で
青――――
インターネットに乗せられた鮮やかなブルーに何故か目を奪われた。
そのページを読むと『長いこと、自然界には青いバラは存在しないといわれていた。なぜなら、バラにはもともと青い色素がないから。遺伝子組み換えをする以前は、青いバラを作るには、品種改良によって赤い色をどんどん抜いていき、「青」というよりは、「青に近い色」にしていく方法が主流だった。
その後、人工交配によっていくつかの青いバラを世に送りだし……』
「へ~、なるほど……品種改良、配合…ね。これならハイブリッドの意味も併せられるかも…」
とブツブツ言っていたら、
「……うぉっ!前川、お前まだ帰ってなかったんかよ」
と塩原に急に声を掛けられ私もびっくり。何と言っても集中していたから。
気付いたら辺りは真っ暗。私の営業部のフロアは私と塩原以外誰も居らず、電気は落とされ、かろうじてデスクライトだけがPCを浮かべ上がらせていた。PCのデジタル時計は23時を少し過ぎていた。
うっそ!もうこんな時間!?
「塩原こそ…」
「俺は接待。イマドキ接待てのも時代錯誤だけどな~、向こうが俺のことえっらい気に入ってくれて。でも定期券忘れたから一回帰ってきた。
何、今度のプレゼンの資料揃え?」
塩原が私のデスクに回り込んでくる。
定期券……か…
そう言えばお昼に塩原に例の乗車券を触ってもうらことができなかったから今からでも……
と思ったけれどそれより早く仕事を何とかしたい。
私は軽く伸びをして
「うーん……そのつもりだけど、思ったより難航してて…」と言いかけたとき、私のお腹がぐぅと鳴った。
「わっ」思わずお腹の辺りを押さえると、塩原は苦笑。
「ほれ、これ土産。取引相手がえっらい乗り気で中身鉄火巻きだけど渡してくれてさ」
「へー、寿司屋で接待、あんたいい仕事してんね」皮肉を込めて笑うと
「要らないんなら俺の夜食になるだけだけど」と塩原は手を引っ込める。
「わー!いただきます!」
結局、塩原の差し入れをありがたくちょうだいすることに。
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