第32話
――――
――
慌ただしく食事を終え、午後からの仕事の資料はデスクに戻って目を通そうか、と思いながらタブレット端末を操りながら階段を下る。
階段の上から
「ゆ~り~!」
声を掛けられ、見上げると同時に
ファサっ
私のまとめていた髪が解かれ、髪先が肩や背中に落ちる。
私は恨みがましく四人だけの同期”敦子”を見上げた。
「ちょっとぉ、何してくれるの」
せっかく人通りが少なそうな階段を選んで降りてきたつもりが、悪友に見つかってしまうとか…
敦子は手にしたペンをくるくる回しながら、
「由利、これで髪まとめてたの?」呆れた、と言いたげに目を細める。
「だって今朝急いでたからヘアクリップでまとめる余裕なかったし」
「じゃぁ下ろせばいいじゃん。せっかくきれいな黒髪なんだからさ。それにそんなひっつめ髪だと益々周りの人怖がっちゃうよ」
「分かってるよ、言われなくても」
恨みがましく目を上げて敦子からペンをひったくった……けれど、確かにこのペンで髪まとめるてのは流石にナシかな…私、完全に女捨ててる…
「そう言えばさ~うちの部の
「内海さん?あの背が低くてふわふわの可愛い子?」
「そうそ」
「マジもなにも、かなりだよ」
「営業部はイケメン揃いが多いから、正統派イケメンの弓削くんは奈津美と婚約してるから無理として~、塩顔爽やか塩原。あ!だから塩原!」キャハハ、と奈津美は何が可笑しいのか笑う。
「弓削くんがかっこいいのは分かるけど、塩原ってそんなに人気なの??」
「え?知らなかったの?かなり人気だよ」
敦子はケロッ。
「近くに居過ぎて気づかないパターンかぁ」と顎に手をやりニヤリと意味深に笑う。
「気付いたところでどうにもならないけどね」
「そんなお堅くならなくていいんじゃない??リラックスリラックス、由利は髪下ろしてる方が私は好きだよ~」
何が言いたかったのか敦子はひらひらと手を振って行ってしまった。
髪下ろしている方が……か。
私は手の中のペンを眺めた。
お固すぎる―――怖い。
何が悪い、
って開き直ってたけど、塩原が私の髪の香りを気に入ってくれたってこと知ったから、
下ろしててもいいかな…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます