第31話
「ランチですかぁ?私もご一緒してもいいですかぁ?ほら、席一つ空いてるし」
と経理部の可愛い子ちゃんが、確かに空席になっている椅子を指さし、私たちの返事も聞かずして勝手に腰掛ける。その可愛い子ちゃんのトレーには山菜のかけ蕎麦が乗っていた。まだ出来たてなのかふわふわと湯気が立っている。
私と弓削くんは思わず顔を見合わせた。
「……あ、じゃぁ俺もう行きます」と弓削くんの方が早く行動を起こした。チキン南蛮定食はまだ残っていたけれど、席を移動するつもりだろう。
ちょっと待ってよ!この状況に私を残していかないで!
と恨みがましく弓削くんを見送り、慌てて残ったカレーライスをかきこもうとしていると
米粒が喉に詰まって盛大にむせた。
げほっごほっ!
「おい、大丈夫かよ。ほら、水」と塩原が水が入ったコップを手渡してくれる。
「ありがど…」
と受け取るも、斜め横から突き刺さるような視線が……
その視線に気付かないフリをしながら
「ありがと、塩原!私ももう行くね」と、私はそそくさと席を立った。
『待ってよ!二人きりにしないでくれ!』
塩原の目がそう訴えていたが
『いい歳した大人でしょう?自分で何とかしなさいよ』
と、私は口パク。
ああ、また冷たいって思われるんだろうな―――
カレーライスも最後の方ほぼ強引に流し込んだ形になったし、資料はちゃんと目を通せなかったし。
それに―――……
あの乗車券にもう一度触ってもらえなかった。
”あのとき”
確かに塩原と乗車券を持ったとき、すっごく嫌な感じがしたんだ。
でも今日は弓削くんと持っても何もなかった。
だから、”あれ”は気のせいだと思いたい。
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