第17話
ドキドキした気持ちではない。
どちらかと言うと、ううん、はっきり言うと言葉では表せないぐらい嫌な感じ。
悪寒…
と言うのだろうか、額に変な汗が浮かんだ。
店は若干寒すぎるぐらいの冷房が効いてたのに額から妙な汗が出てきた。けれど足元から得体の知れない何かが這ってきて体をわけも分からない冷気が昇り上がってくる、そんな感じだ。
得体の知れない何かが、私のすぐ背後まで迫ってきている。
何故だかそう思った。
目を開いたままゆっくりと振り向くと、当然ながらそこには何もない。きれいな白い壁が広がっているだけだった。
「確かに変だよな、何でこんな古い乗車券」塩原が手を離した瞬間、その寒気とも悪寒ともつかない不穏で得体の知れない気配は消えた。
それでも完全に消えたわけじゃない。
私の全身には鳥肌が立っていた。
「…前川…?どした?お前…顔色真っ青」と塩原に指摘され、私は慌てて頷き
「うん…ごめん、ちょっと酔ったのかな…私、お手洗い行ってくる」
「え!大丈夫かよ…」
「大丈夫、酔い覚まししてくる」
トイレに向かうと、二つ個室が連なっていて、洗面所も二つあった。どこも掃除が行き届いていてきれい。
冷たい水で手を洗って、酔いを冷ませば…
そう、酔っぱらったのだ私は、きっと。
ホントは今すぐ顔をバシャバシャ洗いたかったけれどそれは流石にできず、じっくり時間をかけて水で手を洗っていると、ふと、また何かの気配を感じて顔を上げると、鏡の中私の背後でサっと何かが横切った。
そして私の耳元で小さく……本当に小さな女の人の声が
『見つけた……』
と囁いた。
何!?
思わずバっと振り返ると、驚いたようにビクっとした若い女の子(たぶん大学生ぐらい)が突っ立っていて、すぐに怪訝そうな表情を浮かべた。
もう一度前を向くと、その鏡には私と、明らかに不審そうな表情を浮かべてゆっくりと私の背後を通り過ぎる若い女の子だけしか映っていなかった。
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