第16話


「あー…13:00って言うとさ、私、昨日変なバスに乗ったんだよね」



私は何で話を逸らしたのだろう。



この後に続く言葉を、何となく聞きたくなかった。



変な期待―――して、痛い目に遭うのはごめんだ。



前にも似たようなパターンがあった。相手は塩原じゃないけれど、大学時代から片思いだったテニスサークルの先輩と街でばったり再会して、その後何度かお茶や食事に行った。



てっきり先輩も私の事好きでいてくれてるのかと思ったけれど、それは思い上がりだった。



先輩には片思いをしている、それはそれは私と正反対の可愛い会社の後輩が居るってこと聞かされたとき自分のバカさ加減を呪った。



痛かった。



心が―――



破裂しそうなぐらい。



その傷口は塞がったけれど、また新たな傷を負うには歳が行き過ぎている。



つまり、臆病だったのだ私は。



傷つきたくない。



ただ、それだけ。



「変なバス?」



塩原は私の逸らした話に付き合ってくれた。



「うん、色々とね」



「何だよ、色々って」塩原は苦笑を浮かべる。



「そうだね、まずはその夜行バスの乗客が私一人だったこと」



思わえば、そんな小さなことも変だった。



「それにね、降りるときバスの時刻が13:00ってなってたんだよ」



「何だそれ」塩原は目をぱちぱち。だけどすぐにぷっと吹き出して「相当飲んだんだなー」



「…そうかな…私の単なる見間違い?」



「見間違いだって。色々変じゃん?」



「色々……そう、色々変だったんだ。



そう言えば、乗車券を拾ったんだ」



「乗車券?」塩原に聞かれて、今更のように私は財布に仕舞った乗車券を取り出した。



相変わらず赤茶けていて、よれよれの片道切符。



「かなり昔の乗車券だよね。今はこのバス停なんて存在してないし」



塩原に見せて



「どれどれ?」塩原が覗き込んで、私の手と塩原の手が一瞬触れ合った。



その瞬間






ドクン…!





心臓が強く鳴った。



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