第18話


さっきの影と声は一体何だったの?



鏡を見ると私の顔は血の気が失せて真っ青だった。



しかし、ピシリと両頬を叩き



見間違いだよ、聞き間違いだよ。



相当、酔っぱらってるのかな…



ふらふらとした足取りで個室に戻り、しかし塩原と飲みなおす気分ではなかった。



「ごめん、塩原。ちょっと具合が悪いみたい。今日は帰るわ。飲み代はあとで請求して」



と言って置きっぱなしにしていたバッグを手に取ると



「え?大丈夫かよ。送っていくよ」と塩原もビジネスバッグを手にして伝票を手に立ち上がった。



「え?いいよ、それは流石に悪いし」



「いいって、てか見るからに具合悪そうな女放っておけないだろ?」



「……うん…」



塩原は―――誰にでもこう言うやつだ。



誰にでも―――優しい。



私だけ特別ってわけじゃない。



流石に21時台、電車は通常通り動いていて、私たちはその電車で揺られて私のアパートの最寄り駅まで、私たちはしばし無言だった。



世間では休日だと言うことで、飲み会の帰りだろうか、若者たちの賑やかな声が聞こえてきた。彼らの目に私たちはど映っているのであろう。



無機質な夏の夜の街を映す流れる景色を眺めながら、私はひたすらに「さっきのは何だったんだ」と繰り返し繰り返し頭の中で考えた。



が、考えた所で答えなんて見つからない。



その頃にはさっきの悪寒がひいていったのだ。電車の中が割と人が多く、冷房が効いていると思ったが人の熱気でその効果も薄まっていたのであろう。



駅に到着して、塩原はアパートまで送ると言ってくれたけれど、それは流石に断った。



「ホントに大丈夫だから」と言う言葉に塩原はしぶしぶと言った感じで引き下がろうと―――していた。



改札口で交通系ICカードをかざそうとしていると、





「あのさ、前川!」





塩原の思いのほか大きな言葉に振り返った。


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