第10話


私は首を捻った。



愚痴―――と言うのが気になったし、私だって愚痴りたい気分だった。



二日酔いとは言ったけれどごく軽いものだったし、今日は予定もないし。



「分かった、場所と時間メールしといて」と短く返しくるりと踵を返し後ろ手でひらひら。



「すぐする!」と背後で、一段と塩原の声が弾んだのは―――



気のせい―――じゃない気がする。



由利ゆり~~!」



名前を呼ばれて振り返ると、笑顔で奈津美がぶんぶん手を振っていた。



「由利、昨日大丈夫だった?」と奈津美が小走りにやってきて私の手をぎゅっと握る。



「昨日?うん、全然大丈夫……じゃないな、ちょっと二日酔い」私が苦笑すると



「私たち、かなり飲んだよね~、たかくんに叱られて、んで『たまには私だって羽根伸ばしたい』って口論になって喧嘩!朝、サイアクだった!」



”たかくん”は私の二年後輩の営業部若手ホープのイケメンで、本名、弓削 ゆげ たかし。奈津美と同棲していて婚約者でもある。



何でそこまで詳しいかって?だって同じ部署だから。



でも”たかくん”はこんな愛想もなくて冷たく見える私なんかにも『先輩』と人懐っこい笑顔を振りまいてくれる、イイこだ。



「”あの”弓削くんが怒るなんて相当だったんじゃない?」



「もー!今日はやけ食いするの!由利付き合って!!」



ガシっ!



力強く手を握られ、私はその勢いに押される形で、



そのまま奈津美に、近くの定食屋さんに引っ張られていった。



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