第11話


定食屋は文字通りThe”定食屋”だ。



土曜日だと言うことで、客は少なかった。



けれど冷房が完備されてないのか、やたらと暑い。私は着ていたスーツのジャケットを脱ぐ羽目に。



よく見たら休日出勤のサラリーマンも同じ様にジャケットを脱いでいて、クールビズなのか殆どの客がネクタイを締めていなかった。



いかにも年代を重ねた店は小綺麗じゃないし、とてもじゃないが女の子のSNS映えするメニューも記載されていない。



安価でとにかくボリュームが凄い。



奈津美がこの定食屋に出入りしているのが不思議だった。だって不釣合い過ぎる。



初めて入った定食屋だから当たりはずれのない”から揚げ定食”にしたけれど



ドンっ!



と「はい!から揚げ定食ねっ!」と威勢よく店員のおばちゃんに言われて出されたその量に目を剥きそうになった。



「山……」



から揚げの山だ。



Mount KARAAGE



なんて思ってる場合じゃない。



「弓削くんとそんなに深刻なの?何なら私がそれとなく彼から話を聞いてみよっか」



と割りばしを割って奈津美を心配そうに見ると



「大丈夫!てか怒ってるのは私もだもん」と奈津美は目を吊り上げて割りばしを割っていた。



奈津美はたまに来るのだろうか慣れた様子で『チキン南蛮定食』と頼んでいたが、こちらもやはり凄いボリューム。



細いのに、どこに入っていくんだか…



「たかくんねー!今朝、朝食作っても食べずに出社したんだよ!有り得なくない!?



今度の…一か月後のお盆休み、たかくんのご両親にご挨拶に行くって決まってたけど、もうそんな気分じゃないし!」



と奈津美の愚痴は止まらない。



あと一か月でお盆かー、そりゃ暑い筈だな。



奈津美はかれこれ十分、愚痴をこぼしていた。私のから揚げの山は奈津美の愚痴を聞くのに精一杯で一向に減らない。



かく言う奈津美はチキン南蛮定食を半分程食べてから



「ところで由利は無事に家にたどり着いた?まぁ今こうしてるわけだし無事か」とあっけらかん。



「まぁね、ちょっと記憶が飛んでるけど……それより後輩の悪口の方が」



思わず愚痴が言葉に出ると



「何?」と奈津美にツッコまれた。


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