第6話
それはだいぶ古い……約10㎝角の乗車券でやや厚みのある紙はよれよれで日が経っているのか茶色く変色していた。
座る時、こんなんあったっけ…
まぁ酔っぱらって見過ごしたんだな。
この席に座った誰かの忘れ物かと思って、私はその乗車券を拾って前降車、前清算の運転手さんに
「これ、どなたか忘れていったみたいです」とその古びた乗車券を提示した。
運転手さんは不思議そうな顔付きで
「だいぶ古いですね、今その乗車券は廃止されてるんですが」
との言葉に、
確かに今はチャージ制の交通系ICカードが普及しているのに、この古びた乗車券は時代錯誤な気がする。でも、誰かの忘れ物だったら渡した方がいいんじゃない?
けれど「お預かりします」と言う運転手さんの言葉は聞けなかった。
結局私が持ち返ることになった。
何で私が持ち返らなきゃならない。
と若干の不満を残しつつ、けれど何か気になった。
すぐに捨ててもいいけれど、それも何だか憚れる。
何となく……それを捨てる気になれなかった。
結局私はそれを財布に仕舞い入れ、バスを降車することにした。
ふと時間を確認するとバスの電光掲示のデジタル時計は
13:00
となっていた。
「え?」
一瞬声をあげた。
「どうされました?」と運転手さんは怪訝そうに眉をしかめている。
いっそ、迷惑そうとも捉えられる表情で私の目線を追っても、彼は何も不思議に思わなかったのか、またも迷惑そうに顔をしかめ私を見る。その目が『早く降りてくれ』と物語っていた。
「すみません…」私は結局、素直に降車することに。
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