十二

 寝つきの悪い夜だった。目を閉じてから、どれくらい経っただろう。ふと、目を開けた。天井に映る有明行灯の光が何かをくり抜いていた。


 行灯の方を見ると、彼が枕元で正座をしていた。一瞬で頭が冴えた。思い切り体を起こし、手を伸ばし、彼を抱きしめた。


「どうして、どうして夜にしか会えないのです。昼間も、会いたいです」


 彼は黙っていた。夜中にこんな大きな声を出したらきっと誰かに気づかれてしまう。いや、気づかれてもよかった。もう一度、大きく息を吸い込んだ。


「貴方と一緒にいると、心が落ち着くのです。この感情を何て名前で呼べばいいか分かりません。私は何も分からないのです。でも、どうしようもなく、貴方と一緒に居たいのです」


 私の呼吸は乱れていた。すると、ゆっくり背中に彼の手がまわってきた。ああ、今、彼を抱きしめている。


 これは夢なんかじゃない。夢なんかじゃない。段々と目頭がじりじりと熱くなってきた。嬉しさだとか、怒りだとか、不安がごちゃごちゃに混ざっていく。


 ゆっくり体を離し、彼を見つめた。彼もゆっくり背中にまわしていた手をほどいた。彼は俯いていた。


 このままでいたかった。でも、現実はいつも残酷だ。



 瞬きをすると見慣れた天井が視界に入った。雀の鳴き声と、太陽で明るくなった部屋。


 ああ、やっぱり夢なのか。ふと、目尻から温かい涙が零れた。こめかみを流れ、髪の生え際で消えた。この涙は夢ではない。現実と夢は繋がっていると思った。


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