六
また真夜中に目が覚めた。ふすまは、やはり数センチ開いている。急いでふすまのもとへ向かい、ふすまを開けた。
縁側にはこの前の殿方が腰掛けて、また月を眺めていらっしゃった。
でも、何だか様子が前と違う気がした。彼の肩が少し、上下する。私は彼の隣に腰掛け、顔をのぞき込んだ。
大きな目は宝石のように、涙できらきら輝き、大きな涙の粒が、頬を伝っていた。
「どうされましたか…?」
彼の大きな黒い目がぐわんぐわんと波打っている。また、流れ星のように、涙が頬を流れて行った。
私は拭ってあげたかったが、今ハンカチを持っていない。ハンカチは戸棚の中にしまってある。
「お待ちください。ハンカチを取って参ります」
そう言って、立ち上がろうとした瞬間、腕を優しく、静かに掴まれた。
彼を見ると、また彼の大きな目から、流れ星が落ちていく。次から次へと、ほろほろ落ちていく。
私は、ハンカチを取りに行くよりも、ここで一緒に居てあげたほうが良いと思った。私は再び、縁側に腰掛け、掴まれていた手に自分の手を重ねた。
彼は静かに泣いていた。こういう時は、落ち着くまで一緒に居てあげた方が良い。
私は、彼の背中をさすった。ほんの少し、彼の掴む手が強くなった気がした。
月を眺めて涙を流すその姿は、本物のかぐや姫だと思った。
「あなたはきっと、還って行くのですね」
そうして私達は、いつまでもそうしていた。夜は明けなかった。
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