五
「モネはフランスの画家で、光を表現するのがたいへんお上手なんですよ、ええ。日本のことも好いていらっしゃって、浮世絵を所有なさっていたそうです。ええ」
静かな美術館で饒舌なさっているのは、この前写真で見た私に縁談を持ちかけてきた橋本様だった。橋本様は私とほぼ同じ背丈で、顔立ちは写真で見た通りだった。
あれから美術館に行きませんかと手紙が来て、二つ返事で返したが、よく考えれば私は絵というものがたいへん苦手だった。私自身、手先が器用ではなく、絵を描くのが苦手だから、鑑賞するのも何だか引け目を感じてしまうのだ。
橋本様ご自身について何か知られるだろうかと期待していたが、彼は薀蓄と過去の栄光を混ぜたものを永遠にお話なさっている。
結婚の話にも、二つ返事で返したが、私はこれで良かったのだろうか。結婚というものは、よく分からない。お父さまとお母さまが、お互いに楽しそうに話しているところをあまり見たことがない。実際の結婚というものは、そういうものだろうか。
でも、お父さまとお母さまのためだ。私が結婚し、家を出れば、きっと喜んでくれるはず。そう何度も心で唱えた。
想像以上に疲れ、今日は早く布団に入って、眠ることにした。
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