それから一週間が経ったくらいのこと。日常は突然変わる。


 突然お父さまから、お父さまの書斎へ呼び出された。


「お前に縁談の話が来ている」


 何事かと思ったら、真剣な顔つきでそう言われた。


 目の前に差し出されたのは、ある男性の写真だった。樽のような体つきで、細い目でこちらを見ている。


「橋本君だ。この前の授業参観でお前を見たらしい」


 前に女学校の先輩が、授業参観に訪れていた殿方とご結婚なさったことを思い出した。授業参観で見初められるのは、珍しいことではない。


 結婚してしまえば女学校を退学しなければいけないので、私の取り柄となった勉強を捨てることになる。でも、結婚をすぐ決めれば、お母さまの願いを叶えることができる。


 またお母さまの「いい子ね」と言ったあの微笑みをもう一度見たい。


「この方に決めます」


 そう言うと、お父さまは驚いた顔をしていた。


「そんなに焦らなくてもよかろう」


 お父さまは、椅子に深く座り直した。


「今週、橋本君が近くに来るそうだ。その時に会えば良い」


 そして、明後日その方と会うことになった。


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