第53話

鏡の中にいる女は、さっきまでの幼さはすべて消え、この夜の世界に相応しい女性になっていた。



鏡ごしに、俺の名札を見てミサは呟いた。




「えっと、とても綺麗。

シンコちゃん?かな?ありがと」




そう初めて、表情を動かしてミサが言った。



でも、シンコちゃん?

最初は何を言ったか意味がわからなかった。



でも、その後わかった瞬間、ぷっとふいてしまった。



『菅原信己』



名札にそう書いてあるのを凝視しているミサに、ああ、まだ本当ガキなんだなぁっとそこで改めて思っている自分がいた。




「ミサ、これは信己って書いてシンコじゃねえ、ノブキだ。

バカだなお前」




そう言って俺が笑ってミサの頭を軽く小突くとむっと口を尖らせたミサが今でも覚えている。

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