第九話◇果たして、合否は…!?

胸がざわめいている。なぜなら、もう少しで合否が届くから_____。

一度は挫折したが、立ち上がって送った一通目だ。そりゃあ、この前までとは気持ちを入れ替えたのだから、緊張が高まる。


これで落ちたら_____と、考えてしまう。けれど、気分を入れ替えて送ったのだから次こそは受かるはず____とも、考える。


(受かるかしら_____?)


まだ結果がわからないので、ただ届く時を待つ。きゅっと目を瞑り、どくどくと波打っている鼓動を近くで聞きながら。


大丈夫、きっと受かると心の中で暗唱し、なんとか心を落ち着けるが、やっぱり胸の高鳴りは止められない。汗を滲ませて、照明にあたって光を反射する。前髪が少し濡れているのも、汗のせいだ。


ふーっと息をついて、体を整える。大丈夫、受かるはずだから。

スマホをぎゅっと握りしめて、胸へと抱え、ひたすらに合否が届くのを待つ。


(落ち着いて__________。)


自らに言い聞かせる。

手を合わせて、祈る。しかし、祈ったって、結果は変わらないけれども。


必死に考えて、頭を捻って、挫折したけれども立ち上がり、一生懸命、文字通り命をかける気持ちで書いた書類審査。自分でもかなりの傑作だと思っている。きっと、審査員にもこの情熱が届いているはず______。


『ピコン。』

「!!」


いきなりなった着信音に反応し、ビクッと肩を跳ねる。

スマホを目線へと移動させ、恐る恐る画面をタップして、通知を確認する。


『合否について。』

「来た、わね______。」


ごくりと唾を飲み込み、ややふるえる細くしなやかな指を液晶へと滑らし、指紋認証を解除する。

そして、一拍置いて、深呼吸を一度してから、手慣れた手つきで画面を移動させて、メールボックスを開き______。


「合否について。」と続く文面で文字が綴られている、合否結果。ドキドキと心拍数を高くあげならがタップして______。

こう、書かれていた。


『合否について。

松坂 英玲奈様へ。

この度は、ご応募いただき、ありがとうございます。

結果ですが、「書類試験合格」となります。

ですので、次は面接を行います。』


と、文の後に面接について色々書かれていた。


こっちの戸籍では、「松坂まつさか 英玲奈えれな」という名前だ。なんか、異世界の人が色々手配してくれたらしい。本当にありがたいことだ。


「ぇ、嘘、受かった_____!?」


手を口に当てて、驚きを隠せない。

腕を下ろし、思わずスマホが床へと滑り落ちる。カシャンという音が遠くで聞こえる。受かったことが衝撃的すぎて、スマホが落ちた音など耳にさえ遠く聞こえた。


暫く静止して、状況を確認する。頭を動かし、言葉の意味について必死に理解をしようとする。

しかし、頭が追いつかない___。「「書類審査合格」という言葉がうまく飲み込めない。」


ええっと、つまり_______?


一次試験、もとい、書類審査が______、

合格、した?


思わず文面を疑う。え、受かった?え?と。なぜという疑問を浮かべる。

受かったのは、嬉しいのだが__。それよりも、事実が受け止めきれまい。

あ、これはまさか、都合の良い夢、なのではないか?そう思い、軽く頬を引っ張る。

痛い。白い顔が少し赤みを帯びている。

痛いということは、つまり、これは____、


「現実………?」


ポッカーンとした様子でその場から動かないエレナ。


そして、ようやく言葉の意味を理解して___。

現実を受け止める。


受かると思わなかった。倍率がとてつもなく高いのに。よかった、受かった_______。ほっとした安堵と共に、力がふにゃりと抜けて床へと崩れ落ち、天井を見つめて_____、


「やった、よかった。頑張ってよかった______!!」


もう受からないかも______と、思っていたがやっぱり茉莉花の言った通りだ。何度も送り続けて、めげずに頑張ったら受かった。努力が報われたのだ______。頑張ってよかった。本当に_____。


よほど嬉しくて、思わず涙が溢れる。ポロリ、と溢れて流れて行く。と美しい頬をなぞって。


「ぅう〜___。」


ぱたり、と床へ後ろ向きで倒れて、大の字になる。そして、

少し声をあげて泣く。よかったぁ、受かって。嬉しさがこみえげてくる。


満面の笑みで、とびきりの笑顔を浮かべながら、嬉し涙を流す。


ふぅ、とひと段落ついたことだし。こし、と涙を拭う。そして、笑みを浮かべて、


(駄目、まだ受かったわけではないから_____。頑張らないと!!)


ふんっ、と気合を入れ直して立ち上がる。髪が綺麗に靡く。


落ちてしまったスマホを拾い、テーブルに置く。


「頑張ったから、ご褒美にケーキを買おうかしら。」


ふふ、と頬綻ばせながら、準備をする。スマホ、財布とICカード、家の鍵を手に取る。今から出かけるのだ。

玄関へ行き、靴を履いてドアノブに手をかけ、ガチャリと手慣れた手つき開けて、ドアを閉める。


まだまだ一次試験を受かったばかりだけど、ここまで頑張った私にご褒美をあげよう。

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