沸点

「俺、高森 一馬かずまって言います。グループのアパレルの店舗で店長やってます。あちこちに店舗持っているんで、買い物する時は案内しますよ?」


「ありがとうございます。先程一馬さんのお父様とお母様にはご挨拶いたしました。匡高さんの婚約者で、水川 沙彩と申します。よろしくお願いします」


「可愛いなぁ。お前がお見合いで一目惚れしたの解るわ~」



 は?

 その情報、一体どこから…。



「ズルいよな~。独身のなかで2番乗りじゃねぇか。あぁ俺も早く結婚してぇ」



 そうなんだ。

 前例がいるんだ。

 だから高森は今日の集まりの事を、「気を付けて」と助言出来たんだ。

 あれ? でもさっき、高森は後継者の中では初めてって、言ってた。

 先に結婚された方は後継者じゃないって事?

 そんな人は紹介されなかったけど、今日は来ているのかな?

 一馬さんの言葉に引っかかった私は、思わず高森の顔を見上げる。

 でもその言葉に動揺を見せない高森は「2番目とか、順番なんて関係ない」と、一馬さんを一瞥いちべつして歩き出した。



「まだそんなに怒ってんのかよ、哲弥てつやの事。もう許してやれよ」


「…、黙れ」


「お前の女取られて、挙句結婚したくらいでよ~」


「黙れって言ってるだろう!」



 高森はハスキーボイスの声を荒げ、一馬さんの胸倉を掴む。

 余りの俊敏な動きに、私は目を見開いて驚きを隠せなかった。

 あの温厚な高森が怒ったんだ。驚くのは無理もない。

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