警戒心

「そろそろ戻りましょうか? 皆様、匡高さんをお待ちじゃないですか?」と、高森の行動に感心しながら、婚約者らしくそんな台詞を並べると。

「そうだね」と高森も続けば、体を離して手を繋いできた。

 高森はそんな小さな行動さえスマートだ。

 そして体の向きを変えると、そこでやっと “ 見られている ” ことに反撃する高森。



「随分と、好ましくない覗き方をするんだな?悪趣味だぞ?」



 さっき褒めてくれた口調とは別物の、荒っぽい口調。

 決してあの経営の猛者達が集まる場では聞けない、強めの言い方だ。

 思わず隣から表情を見上げる。

 うわ…目が笑っていない。

 と言うことは、覗いてたのは嫌味を言う間柄の人なのか?



「ごめんごめん。一休みしようとしたらお前の気配がするからビックリしたんだよ。珍しくて凝視しちゃった」



 存在がバレたからか、ドアを開け放って部屋に入ってきた男性。

 この人は確か、TAKAMORIグループでアパレルを経営する社長の息子さんだ。



「覗きの趣味は印象悪くするぞ?」



 姿を現した人物に、とげのある言い方をした高森。

 一見したところ印象は悪くないけど、警戒をしなくちゃいけない相手なんだろうか。

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