婚約者の役目

“ 品がある ” と言われて嬉しくないはずがない。

 父の仕事絡みの人からのお世辞には慣れてるけど、私自身を褒めてくれる人は隆至以外に言う人がいないから、尚更で。

 家に1人で留守番をしてくれている隆至に罪悪感を抱きながら、「揶揄からかわないでください」と弱弱しくなった口調で突っ込みを入れる。



「――え…」



 でもなぜか、私が言葉を言いきったところで高森が体を密着させてきた。

 背中に添えた片腕が、軽いハグのように優しく私を抱き寄せる。



「今、扉のすき間から誰かに見られています。疑われないように僕に合わせてください」



 耳元で、本当に小さくそう囁いた高森。

 見られてる? 誰に?

 合わせるって…、あぁ、婚約者の役か。

 褒められた余韻を捨て、頭の中をフル回転させて高森の言葉を解釈した。

 婚約者なら、抱き締められたら抱き締め返す。

 スッと高森の背中に手を回すと、それを合図のように高森は私のセットされた髪を気遣いながら、頭を優しく2回3回とバウンドさせた。

 さすが、女性がされて嬉しくなるようなツボをしっかりと押さえてくるな。

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