気遣い

「いってらっしゃい」とにこやかな表情のお義母様は、他のご婦人方に「お嫁さんと仲が良くて、羨ましいわ」と褒められている。

 背中を向けても分かるくらい、返事をするお義母様のその声が上機嫌だ。


“ 裏ボスには笑顔で従う ”


 恐ろしい事になる前に、しっかり覚えておこう…。



「大丈夫?」



 お義母様裏ボスたちの集団から離れ、話し声が聞こえなくなる距離まで来た時、高森が私に目を向けてそんなことを言ってきた。



「え?」



 なんのことを心配されているのか分からない私は、単純な返事しか出来なくて。



「嫌な思い、しませんでした?」


「あ、大丈夫、です。…多分?」


「多分か」



 ハハッと笑った高森は、小声で「少し抜けますか」と扉の方へと足を向ける。

「じゃぁ案内しましょう」と大きめの声を張り、繋いだままの手を引っ張り、廊下を抜けて人気のない部屋へと誘導した。



「ここは?」


「ちょっとした控室のひとつ。独身者の二次会的なたまり場で、後から来るだろうけどまだ当分来れないと思いますよ?」



「捕まってますからね」と、何かに抑制されたような含み笑いをした。



「母の相手をしてもらって、ありがとうございました」


「あ、いえ」



 私的には裏ボスが早めに分かって安心しましたけど。

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