裏ボス

「沙彩さんのご実家は運送業界では有名でしょう? 匡高まさたかのお嫁さんになる人がそこの娘さんだと、その辺も羨ましいのかしらね?」



 ウフフと、今度こそ本音が解る表情で、綺麗に並べられたローストビーフを取り分けて、丁寧な仕草で私に「はい。どうぞ?」とお皿を渡してきた。

 

 あ、美味しそう…。



「そんな。私の方が匡高さんと結婚出来て、皆様から羨ましがられますよ?」


「そう? ウフフ」



 なるほど。

 誰がどう見たって政略結婚だ。


 私の息子の結婚相手、どう? 良い企業の娘でしょ?

 見付けた私の手腕すごいでしょ?

 ――ってとこだ。


 前言撤回。

 有名なTAKAMORIグループを牛耳ぎゅうじる裏ボスは、彼女かもしれない。



「母さん、そろそろ沙彩さあやを返してもらって良いかな?」



 高森が、ちょうどいいタイミングで私の目の前に現れた。



「あらあら、ごめんなさい? あなたの大事な人を独り占めしちゃったわね?」



 ウフフと、今度は大きめの口調で周りにマウントを取り始めた。

 お義母様がそうする事で、競争心をあおられた奥様方は余計に視線をこちらに集中させる。



「本当、独占し過ぎですよ。紹介しろと急かされているので、連れて行きますね?」


「あ、お義母様、失礼します」



 今は婚約者と言う立場だから、迷いなく私の手を取った高森。

 私の手にあったローストビーフはテーブルに置かれた。

 美味しそうだからちょっと食べたかったけど…。

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