安堵感

「でも、どうしても沙彩の事が好きすぎて別れるなんて考えられない」


「…、…え」


「思ったんだ。沙彩が俺のことを考えて嘘の結婚選んだのに、俺が別れる事を選択したら沙彩が独りぼっちになっちゃうんじゃないかって」


「…っ」


「俺だって沙彩と結婚したい。でもきっと、政略結婚をさせるくらいのご両親だから、サラリーマンの家庭で育てられた俺との結婚は反対して、結果的に別れさせられるんじゃないかって」


「やり兼ねないと、思う…」


「俺はこれからもずっと沙彩といたいんだ。だから、お前の結婚を認めて、恋人でいようって」


「りゅ…じっ」


「答えが遅くなって、ごめんな?」


「りゅ…っ」



 その笑った顔がまた見られるなんて。

 ごめんなさい、嫌な事を決断させて。



「隆至っ」


「ハハッ 泣くなよ」



 隆至と離れなくて済んだ事に、安堵感でいっぱいだった。

「嘘とは言え沙彩が結婚するんだ。相手に会わせてくれないか?」という隆至の言葉を伝えると、高森は――



“ そう言った事はナシにしましょう。干渉しないという点でもお互い顔を合わせない方が都合がいい ”



 メッセージが書かれたスマホの画面を見せると、「本当徹底してるな」と、高森の意見を渋々了承していた。

 この後内見に行きマンションを決め、本格的に嘘で固められた私達の奇妙な生活が始まっていった。

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