苦味

 隆至りゅうじと連絡が取れなくなって2週間。



「ハー…」



 溜息ばかりついていた日々だった。

“ 会いたい ” とメッセージを送っても、電話をしても繋がらなくて。それはまるで私という存在を拒否されているようだった。

 隆至と会っていた駅のホームに着いても、私の名前を呼ぶ声はしない。

 これ以上隆至を待つ事は、今までの経験からしても別れることが確定しているようなものだから無意味だと薄々感じている。


 そうして私のこれからの人生は、愛してもいない高森の妻を黙って演じる。

 高森と彼女の仲を裂かないようにするのと同時に、“ 物 ” として生きていくしかない。

 反発なんてしても、親の言いなりになって生きてきた私は結局は自分が勘当されるのが怖いんだ。

 何不自由なく暮らせたのは、今の親の地位があるから。

 でも、隆至の恋人で、彼を好きな気持ちだけは本当の私だったのに。



 ――ガシャン


「…」



 ホームのベンチに座り、隆至が好きだった缶コーヒーを自販機で買って飲む。



「…苦っ」



 ブラックの苦みは苦手。

 でも今日の苦みは覚えておこう。

 隆至を好きだった最後の日にしようと思うから。



「…なんにもなくなっちゃったなぁ」



 結局は、保身のためにまた恋人と別れてしまったんだな…。

 自業自得ってことか…。

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