見せかけ

 悲しい顔をさせてしまうなんて、とても複雑な心境になった。

 親とは全く関係のない会社に勤める事と独り暮らしを許して貰う代わりに、両親から呼び出されたら断らない約束をしてしまったから。

 約束を破ると、会社もアパートも引き払う事になってしまう。

 私が拒否をしたとしても、あの人達は力づくでもやるだろう。

 だからあまり彼の前では、家柄とか家業の事とか言いたくないんだ。

 私から離れていきそうで怖い。

 今までだってそういう人が何人もいた。


“ 「俺じゃ君の人生を背負いきれない」 ”


 そう言 って、私から離れていく度に傷付いてきたから。


 だから、高森からの申し出はとても夢のようだった。

 隆至りゅうじと別れなくても済む。

 見合いから帰って私の部屋に隆至が来ると、その事を伝えたら真っ先に怒られた。



「いくらでも籍は入れるんだろう?! 俺とは結婚できないんだろう?!」



 いつも穏やかな隆至が、こんなに取り乱して怒った姿を見たのは初めてだった。

 隆至から “ 結婚 ” って言葉が出てきたことで、彼にとっては私の行動は屈辱なんだ、って気付かされて。

 でも、どうしていいか分からなくなって。

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