救世主

 いつにも増して込み合う車内。

 今日は金曜の夜だから早めに帰宅する人が多いのだろう。

 次の駅がいつも佐々木さんと会う駅。

 私の鼓動が高鳴り始める。



「…?」



 でもその時、お尻辺りに変な違和感を感じた。

 スッとなぞられたような感触があったからだ。



「…っ」



 また触られた。

 これ、痴漢…?

 腹立つ…!


 けど、捕まえたいのにこんなに混雑していると身動きが殆ど取れない。

 それに、実際に自分がされていると怖くて体が動かないものなんだ…。

 あまりの嫌な感触に耐えるように、ギュッと目を瞑り駅に早く着かないかと願っていた。



「おい!」



 その時、突然誰かが声を荒げた。

 それと同時に嫌な感触も消え去った。



「は、放せ!」


「痴漢してたのに何言ってんだよあんたは!」



 佐々…木さん…?

 いつも違う車両から降りてきているのに。

 彼が、この込み合う車内ですぐ傍まで来てくれていた。

 そして1人の男の手を掴み、あの時と同じ、懐かしい場面が目の前で繰り広げられている。

 でも佐々木さんの声は酷く怒っていて。

 それでも、私が安心したのには違いなかった。

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