特別な感情

「私もあの時お礼を言えてなかったので、声をかけてくださって嬉しいです。あの時はありがとうございました」


「いえいえ! 同時って言うのはビックリしましたけど、女性なのにとても勇敢ですね」


「え?! いえ、あの時は無我夢中だったんですよ。女子高生が可哀想だったので」



 他愛ない会話をするうち、ベンチに座り缶コーヒーを飲み始めた私達。

 そして「僕、こういう者です」と、名刺をもらった。



佐々木ささき 隆至りゅうじさん…。凄い。設計をなさる方なんですか?」


「はい。うちの会社の設計課で一番出来が悪いですが」


「えぇ? アハハッ」



 ほんの数分の会話だったけど、お互いの名刺を交換してあの時の勇姿を称え合った。



「水川さん」


「あ、佐々木さんお疲れ様です」



 次に会った時はお互いを名前で呼び合い、駅を出てカフェでコーヒーを飲む。

 社会人になってから出来た、数少ない知り合い。

 話をすれば、まるで気の置けない友達のように会話が弾んでいた。

 それからは帰宅途中にホームで会う事がいつからか楽しみになり、偶然が毎日起きないかと待ち望んでいる自分がいた。

 このドアが開いたらまた呼び止めてもらえるかな。

 日々そんな期待をする自分に、佐々木さんに特別な感情を抱き始めているんだと自覚して胸が熱くなる。

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