再会

 この先きっと父親の言いつけで見合いをする私にしてみれば、恋愛結婚なんて憧れ以外の何物でもないなぁ…なんて。

 駅員に男を引き渡す頼もしい男性の後ろ姿を見ながら、この人と付き合ったら――と、2人でデートをしている妄想までしてしまった。

 怯える女子高生を婦人警官に引き渡したあと、私達も事情を聞かれて。

 話を終えた頃はすっかり外は真っ暗になっていた。



「あの、帰り大丈夫ですか?」


「あ、大丈夫です。ありがとうございます」



 そんなやり取りしかしなかったけど、この人はなんて気遣いが出来る人なんだろうと、私の中の彼に対する株が益々上がっていた。

 こういう人がお見合い相手だったらいいのになぁ…って。

 そんな妄想をする私は、それだけ寂しい人生を送っているってことなのか…。

 そういえば男の人と手を繋いだの、どのくらい前だっけなぁ…。


 ――それから何事もなく数週間が過ぎた頃


 ホームに降りたところで「あの、」と、申し訳なさそうに誰かに話しかけられた。

 驚いた私は慌てて首だけを動かし後ろを振り返る。


 ――と。



「あっ! あの時の!」


「こんにちは」



 痴漢を一緒に捕まえたその人が目の前に立っていた。

 帰宅途中なのか、どうやら一緒の車両から出てきたようだ。



「突然すみません。姿が見えたので思わず声をかけちゃいました」



 そう言って照れたように笑えば、先日の妄想を思い出させる微笑みで。

 笑った目元がとても優しそうな人なんじゃないかと想像させた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る