ハスキーボイスに…

 散歩と称した秘密の契約から戻り、両家が揃う部屋の中。

 今までの態度から一変して、私は「結婚前提のお付き合いさせて頂きます」なんて挨拶までした。

 前日まで薄っすらと抵抗を見せていた私のその態度を、両親はかなり不審がっている。

 だから「一目惚れだと匡高まさたかさんに口説かれてしまいました」と嘘を吐いて俯き加減で恥ずかしがってたら、笑っちゃうほどお互いの親が戸惑ってた。

 相手方の母親なんて「匡高! 沙彩さあやさんと初めてお会いしたのに、なんてはしたない! まぁ、水川さん申し訳ありません」って動揺が凄かった。

 名前を出された本人は怒るかと思ったけど、いけしゃぁしゃぁと――



「沙彩さんが可愛くて、つい…。申し訳ありません。私は是非、結婚を前提にお付き合いをしたいのです。お願いします」


 演技だと分かっているのに、名前を呼ばれてちょっとドキッとしてしまった。

 低くもなく、高くもない、少しだけハスキーボイスの声。

 初めて会話した時から思ってたけど、良い声なんだよね、この人。

 男性から名前を言われたのは、親と会社以外だと彼しかいないし。

 聞きなれない人の声だからそう思うのかもしれない。

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