食えない男
見て?
微笑まれた目の前のおば様方は、両手でグラスを握り締めて頬を染めちゃってるもん。
隣の男が言うセリフにタイミングを合わせて、私もさっきから何度も同じセリフを繰り返している。
そんなロボットに徹している私は、彼氏でもないこの男の口から名前が発せられるとどうも気持ちが落ち着かない。
「先ほどの方の話に女性の名前が出てましたね。お知り合いですか?」
「あぁ多分、以前にお見合いをしないかと勧められていたからですね」
「じゃぁなにも私じゃなくてその人に婚約者の役を頼んだらいいのに」
「まぁまぁ。あれ?ヤキモチですか?」
「そんな事あるわけないじゃないですか」
「ハハッ 手厳しいですね」
隣にいる、食えない男。
歳は31歳だと、お見合い写真に添付された経歴に載っていた。
この人とはつい3か月ほど前に見合いをさせられて、その場で婚約者になった。
とは言え、こうして笑っている顔の裏でなにを考えているか分からないから警戒を怠らない。
これは親同士が決めた縁談。
もちろんそこに私の意思はない。
親の人生のレールに自分は絶対乗りたくない。
けど、一人娘の私にはその願いは叶わない。
ならばせめて生活も仕事も自分の自由に、と家を飛び出したのに、早々にこういう運命を辿ってる。
でも反抗せずに、こうして結婚のお披露目パーティーに出ちゃってるのには訳があって。
断る気満々だった、この高森との見合いの日。
「外に出てみませんか?」という言葉に誘われ、2人きりになった時に言われたんだ。
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