嘘の始まり

「まぁ、本当綺麗なお嬢様ね~。匡高まさかたさんにピッタリだわ」


「美男美女ってこういうことを言うのね~」


「そう言えば以前、私の主人が匡高さんに――」



 名前も知らないおばさん2人が目の前で楽しそうに会話してる。

 おばさんの手には、自慢にしか見えない数の指輪が。

 引くわ~…


 じゃなくて。


 その手で持っているグラス、すぐ横のテーブルに置いてくれないかな。

 それワインでしょ?

 私、真っ白なパーティードレスを着ているんですけど?

 そのまま話しかけるなんて、私に関心もなければ心遣いも出来ないみたい。

 もっとも、このパーティーにすら関心がないんだろうけど。

 まぁ新郎側に招待された客だから、愛想を振りまかなきゃいけないんだろうし。

 きっと “ 花嫁 ” の名前すら覚えるつもりはないだろうな。

 やっぱり隣に立つ新郎の会社絡みの人間って、何考えてるのか分からないな~…

 な~んて。

 目の前で繰り広げられる知らない話題に、笑顔を浮かべながら、現実逃避のように卑屈な事を考えてみる。



「今日はありがとうございます。私も妻の沙彩さあやもこういう場には不慣れなので手が行き届かない事も有るかと思いますが、父同様、これからもよろしくお願いします」


「未熟者ですが、ご指導お願い致します」



 おぉ。

 流石、出来るひとは違う。

 容姿も良いうえに全身がザワッとするような良い声なんて、神様は不公平だ。

 そして早速私の名前を呼び捨てにしてるし。

 腰に手を添えてくるなんて、誰がどう見たって仲睦まじい新婚じゃないですか。

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