第10話:「秘宝の手がかりと動き出す陰謀」

翌朝、リリアンナとカイルは再び森の奥深くへと向かっていた。ガレス・ローゼンフォード侯爵との遭遇によって、二人は改めてこの地に眠る「秘宝」の危険性を実感していた。ガレスが狙う秘宝を貴族たちに渡してしまえば、この地だけでなく王国全土に大きな混乱をもたらす可能性がある。


「私たちが守らなければ……」


リリアンナは、静かにそう呟いた。カイルと共に秘宝を探し出し、それを守る――それが今の彼女たちに課せられた使命だった。


カイルは無言で頷きながら、リリアンナと共に歩を進めた。森の中にはまだ多くの謎が残されている。古の秘宝がどこに眠っているのか、そしてその力がどれほどのものであるのか――すべては未知のままだ。


◆  ◆  ◆


森を進んでいくと、二人の前に古びた石碑が現れた。それは長い年月を経て、苔に覆われていたが、かすかに古代文字が刻まれているのが見て取れた。


「これ……古代文字……?」


リリアンナは石碑に近づき、指先でその文字をなぞりながら小さくつぶやいた。父から少し教わった古代の魔法文字を思い出しながら、彼女はその意味を解読しようとした。


「何が書かれているんだ?」


カイルが後ろからリリアンナを見守りながら尋ねた。リリアンナはしばらく黙っていたが、やがて読み取れた部分を声に出して伝えた。


「……『強大なる力、森の奥に眠りし地を守る者、選ばれし者のみがその力を手に入れる』……そんな内容かしら」


「守る者か……」


カイルはその言葉に深く考え込んだ。選ばれし者のみが手に入れられる――つまり、この秘宝は誰にでも簡単に手に入るわけではないということだ。


「もしかしたら、この地を守ろうとする意志が試されるのかもしれない」


リリアンナはカイルの方を見て言った。二人がここにいる理由――それはこの地を、そしてそこに暮らす人々を守るためだ。その気持ちが秘宝に試されるというのなら、自分たちには資格があるのかもしれない。


「さらに奥へ進もう。この石碑はまだ何かを示しているかもしれない」


カイルの言葉に、リリアンナは頷き、再び森の奥へと足を進めた。


◆  ◆  ◆


その頃、別の場所ではガレス・ローゼンフォード侯爵が動き出していた。彼の後ろには数人の手下たちが控えており、彼らもまた辺境の地で何かを探している様子だった。


「……どうだ、手がかりは掴めたか?」


ガレスは冷たい声で手下に問いかけた。手下たちは、少し怯えた様子で頭を下げながら答えた。


「まだ、確実な手がかりは見つかっておりませんが……」


「馬鹿者!この地に眠る秘宝は、王国を統べる力を持つと言われている。早く見つけ出せ!」


ガレスは苛立たしげに声を荒げた。彼にとってこの秘宝を手に入れることは、王国の支配権を確固たるものにするための重要な手段だった。そのためには、どんな手段を取ってでも目的を達成しなければならない。


「死神騎士が現れたことは分かっているだろう。奴を排除し、この地を完全に掌握するのだ」


ガレスの指示に、手下たちは再び頭を下げ、迅速に行動を開始した。彼らは手に入れるべきものが何であれ、邪魔者を排除するための準備を整えていた。


◆  ◆  ◆


その夜、リリアンナとカイルは森の中で焚き火を囲んでいた。昼間に発見した石碑のことが二人の頭の中を巡っていた。


「私たちがこの地を守るために選ばれた者だとすれば、秘宝もきっと……」


リリアンナは静かに語りかけた。だが、その時カイルは不意に立ち上がり、周囲に目を光らせた。


「……誰かが近くにいる」


その言葉にリリアンナも緊張感を覚え、魔法の準備を整えた。カイルは剣を握りしめ、森の奥へと目を向けた。


「出てこい。そこにいるのは分かっている」


カイルの鋭い声に応えるように、暗がりから数人の男たちが姿を現した。ガレスの手下だ。彼らはカイルとリリアンナを囲むように配置し、じりじりと距離を詰めてきた。


「貴族の命令か……」


カイルが冷静に男たちを見つめながら言った。その言葉に、手下の一人がにやりと笑って答えた。


「その通りだ。お前たちにはここで消えてもらう。秘宝は我々がいただく」


その瞬間、男たちは一斉に攻撃を仕掛けてきた。リリアンナは咄嗟に魔法を放ち、カイルは剣を振りかざして迎え撃った。二人は見事な連携で次々に手下を倒していくが、その数は多く、油断はできなかった。


「リリアンナ、気を抜くな!」


カイルが鋭く叫び、リリアンナはさらに強力な光の魔法を放つ。辺りは一瞬、眩い光に包まれ、手下たちは怯んだ。


「今だ、カイル!」


リリアンナの魔法が敵を混乱させた隙に、カイルは剣を振り下ろし、最後の一人を倒した。辺りは再び静けさを取り戻したが、リリアンナは肩で息をしながらカイルの方を見た。


「カイル……大丈夫?」


「無事だ。お前も無事で何よりだ」


カイルは短く答え、剣を収めた。リリアンナも一息つきながら、再び彼の隣に立った。


「貴族が本気で動き始めたわね……」


リリアンナはガレスの手下たちの動きを目の当たりにし、改めて彼らがどれほど危険な存在かを感じ取っていた。


「奴らを止めるためには、俺たちが先に秘宝を見つけるしかない」


カイルの言葉に、リリアンナは小さく頷いた。二人はこれから、さらなる試練に立ち向かうことを覚悟しながらも、互いの絆を確かめ合い、進むべき道を見据えていた。

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