第9話:「貴族の名と、忍び寄る陰謀」
リリアンナとカイルは、古の秘宝を探すために森の奥深くへと足を踏み入れていた。カイルが集めた情報によれば、この辺境に眠る秘宝は、古代の魔法を宿しており、手に入れた者に強大な力をもたらすという。貴族たちはその力を狙って、この地を荒らし、村を襲わせていた。
だが、まだ謎が多い。リリアンナは、秘宝が存在するならば、それが何のために作られたのか、誰が守ってきたのか、そして何故貴族たちが今それを欲しているのか――そのすべてを知る必要があると感じていた。
「カイル……秘宝が本当に存在するなら、私たちはどうすればいいのかしら?」
リリアンナはカイルの隣を歩きながら尋ねた。彼は少し考え込むように視線を前に向け、静かに答えた。
「秘宝が存在するなら、俺たちはそれを守らなければならない。だが、もしその力が危険なものなら、誰の手にも渡らせるわけにはいかない」
リリアンナはカイルの言葉に頷いた。彼の強い決意を感じ取り、彼女もまた、共に戦う覚悟を新たにした。
◆ ◆ ◆
森の奥へと進む二人の前に、小さな村が現れた。村は静かで、まるでここだけ時が止まっているかのような異様な雰囲気が漂っていた。
「……この村にも、何かが起きているのかもしれない」
リリアンナがつぶやいたその瞬間、ふいに風が大きく吹き荒れ、二人は立ち止まった。
「誰だ!?」
突然、カイルが鋭い声を上げ、剣を構えた。リリアンナも魔法を準備する。すると、目の前の木陰から現れたのは、一人の上品な装いをした男だった。
「ほう、まさかここで出会うとはな」
その男はゆっくりと二人に近づいてきた。中背で鋭い眼差しを持ち、貴族然とした高貴な雰囲気を漂わせている。しかし、その眼には冷たい光が宿っていた。
「貴族……!」
リリアンナが警戒心を強めると、男はにやりと笑った。
「私の名はガレス・ローゼンフォード侯爵。貴族派閥の一人だ。お前たちがこの辺境で何をしているのかは知らぬが、秘宝を狙っているのだろう?」
「ローゼンフォード……!」
カイルはその名前を聞いた途端、鋭い目をさらに光らせた。ローゼンフォード侯爵は、王国の貴族派閥の中でも力を持つ有力者であり、影でさまざまな陰謀を巡らせていると言われている人物だ。
「あなたが……村を襲わせた張本人なの?」
リリアンナは鋭く問いかけたが、ガレスは冷笑を浮かべて軽く肩をすくめた。
「襲わせた? そんな小さなことは、私にとっては取るに足らない事だ。だが、私はこの地に眠る秘宝が何であれ、それを手に入れるつもりだ。強大な力がこのローゼンフォード家に渡ることは、王国の繁栄に必要だからな」
「繁栄……?あなたは、自分の欲のために秘宝を狙っているだけじゃない!」
リリアンナの声に、ガレスは薄く笑みを浮かべた。
「欲だと? ならばお前たちはどうだ?この秘宝を守るために、どれほどの覚悟を持っているというのだ。辺境に隠れ住むだけで、王国を動かす力を持つ貴族に対抗できるとでも?」
その言葉に、リリアンナは一瞬言葉を失った。貴族という巨大な存在に立ち向かうということが、どれだけ難しいかを改めて実感させられたのだ。だが、カイルはその冷笑に動じることなく、鋭い声で言い放った。
「お前たちに秘宝を渡すわけにはいかない」
その言葉に、ガレスは面白そうに目を細めた。
「ほう、ならば戦うか?“死神騎士”カイル・ヴァルデリックよ」
その名を呼ばれた瞬間、リリアンナは驚いてカイルを見つめた。どうやらガレスはカイルの過去を知っているらしい。そして、その過去を利用して何かを企んでいるような気配が漂っていた。
「お前のような戦場の亡霊が、再び王国の地に足を踏み入れることになるとはな」
ガレスはさらに挑発的に笑みを浮かべた。カイルはその言葉に動じることなく、剣を構え、いつでも戦える態勢を整えていた。
「リリアンナ、下がれ」
カイルは短く命じ、ガレスに向かって一歩前に踏み出した。だが、その瞬間、ガレスは手をひらりと振り、何かの合図を送った。
「今は戦わないさ。だが、覚えておくがいい。この秘宝は、いずれ我々の手に渡る。そして、その時こそ、お前たちの終焉が訪れる」
その言葉と共に、ガレスは静かにその場を去っていった。彼の背中には何かしらの圧倒的な力が感じられ、リリアンナは胸の中で不安を拭いきれなかった。
◆ ◆ ◆
その後、リリアンナとカイルは静かに森を抜け、再び家へと戻ってきた。リリアンナはカイルに何度も尋ねたいことがあったが、彼の険しい表情に言葉を飲み込んでいた。
「カイル……」
リリアンナが意を決して声をかけると、カイルは少しの間、黙っていたがやがて静かに口を開いた。
「ローゼンフォード侯爵……彼は、俺が過去に仕えていた貴族の一人だ」
リリアンナは驚いて彼を見つめた。カイルがかつて仕えていた貴族が、ガレス・ローゼンフォードであったこと――そして、今再び彼と敵対することになることが、彼にとってどれだけ重い意味を持つのか、彼女は理解し始めていた。
「カイル……どうするの?」
リリアンナの問いに、カイルは静かに目を閉じた。そして、強い意志を込めて答えた。
「俺たちがやるべきことは変わらない。秘宝を守り、この地を救う。それだけだ」
その言葉に、リリアンナもまた覚悟を決めた。カイルの過去がどうであれ、今の彼は彼女にとってかけがえのない存在だ。共に戦い、共に進むこと――それが彼女の選んだ道なのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます