第8話:「貴族の陰謀と迫る影」

荒れ果てた村を後にしてから数日が経った。リリアンナとカイルは再び静かな日常を取り戻していたが、二人の胸の中にはあの村で聞いた「貴族」の存在が重くのしかかっていた。


「貴族がこの辺境で何かを企んでいるなんて……」


リリアンナは焚き火の炎を見つめながらつぶやいた。小さな村を襲わせるという行為はただの金品目当てではない。もっと大きな目的があるはずだ、と彼女は感じていた。


「カイル、貴族がこの辺境で動いている理由……何か心当たりはあるの?」


カイルはしばらく黙って考え込んだが、やがて静かに口を開いた。


「貴族たちがこの地を狙うとすれば、何か重要なものがここにあるからだろう。資源、土地……もしくは、誰か特定の人物が狙われているのかもしれない」


その言葉に、リリアンナは不安を感じた。彼らが追放され、隠れて暮らしているこの辺境にまで、貴族の影が忍び寄っているとすれば――自分たちもまた、その標的になり得るかもしれない。


「でも、私たちはまだ何も知らない……どうすればいいの?」


リリアンナは無力感に苛まれながら、カイルに問いかけた。カイルは彼女を見つめ、確固たる声で言った。


「俺が探ってみる。辺境の他の村や、かつての仲間たちに連絡を取れば、何か情報が掴めるかもしれない」


カイルは少しの間黙った後、リリアンナの手を軽く握った。


「お前を巻き込むことになるかもしれないが……それでも、一緒に戦う覚悟があるか?」


リリアンナはその問いに迷わず頷いた。カイルと共にいることで、彼女は自分の弱さを少しずつ乗り越え、強くなりたいと願っていた。


「もちろんよ、カイル。私も一緒に戦うわ。私たちが守るべきもののために」


彼女の決意にカイルも微かに頷き、二人は焚き火の前で新たな決意を固めた。


◆  ◆  ◆


翌日、カイルは早速行動を開始した。彼はリリアンナに「しばらくここで待っていてくれ」と告げ、辺境の奥にある他の村へと向かった。カイルが不在の間、リリアンナは一人で家を守ることになった。


カイルがいない時間は長く感じられたが、リリアンナは不安を振り払うように自らの魔法の訓練に打ち込んだ。自分ができることを最大限にして、カイルの帰りを待とう――彼女はそう決心していた。


「私ももっと強くならなければ……」


彼女はそうつぶやき、魔法の発動に集中した。今では魔力の感覚も徐々に取り戻しており、光の魔法だけでなく、風や治癒の魔法も使えるようになりつつあった。


「これなら、カイルと肩を並べて戦えるかもしれない……」


リリアンナは小さな達成感に胸を膨らませていた。


◆  ◆  ◆


その夜、カイルが戻ってきた。彼の表情はいつも通り冷静であったが、どこか緊張感が漂っていた。


「何か分かったの?」


リリアンナはすぐに尋ねた。カイルは頷き、深刻な声で答えた。


「貴族がこの辺境に狙いを定めた理由は、どうやらこの地に眠る“古の秘宝”にあるらしい。この地に伝わる古い伝承の中に、強大な力を持つ秘宝が隠されているという話があるんだ」


その言葉に、リリアンナは驚いた表情を浮かべた。


「秘宝……?そんなものが本当に存在するの?」


「信じ難いが、その噂は信ぴょう性があるらしい。貴族たちはその秘宝を手に入れるため、辺境の地を手中に収めようとしている。村を襲わせたのも、その一環だ」


カイルの説明を聞きながら、リリアンナの心には不安が広がっていった。もしその秘宝が本当に存在し、貴族たちがそれを手に入れれば――この地だけでなく、さらなる戦乱が巻き起こるかもしれない。


「私たちも、その秘宝を探さなければならないのね……」


リリアンナの言葉に、カイルは静かに頷いた。


「そうだ。貴族たちに渡すわけにはいかない。それがこの地の人々を守るための鍵になるかもしれない」


彼の言葉に、リリアンナは覚悟を決めた。カイルと共に秘宝を探し出し、この地を守るために力を尽くす――それが今、彼女たちに課された新たな試練だった。


その夜、リリアンナはカイルと並んで夜空を見上げながら、胸に去来する不安を拭いきれずにいた。


「カイル、私……うまくやれるかしら?」


彼女は小さな声で、彼に問いかけた。カイルは静かに彼女を見つめ、優しく微笑んだ。


「お前なら大丈夫だ。俺がいつもお前の隣にいる。共に戦う者がいる限り、恐れることはない」


その言葉に、リリアンナは少しだけ安心した。カイルがそばにいる限り、自分は強くなれる――そう信じて、彼女は深く頷いた。


「ありがとう……カイル」


リリアンナは静かに目を閉じ、心の中で新たな決意を固めた。これから二人で進む道は、危険に満ちているだろう。しかし、彼らには守るべきものがある。そう信じて、彼女は次なる戦いに備えていた。

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