第7話:「新たな敵と不安な予感」
カイルとの生活が、リリアンナにとって日常となりつつあった。辺境の静かな森の中で、二人は少しずつ息を合わせ、互いを支え合いながら生活している。リリアンナは以前よりも魔法の力を使いこなせるようになり、カイルとの連携も自然なものとなっていた。
だが、その平穏もいつまでも続くわけではない――。
◆ ◆ ◆
ある日、リリアンナとカイルはいつものように森を散歩していた。辺境の空気は澄んでおり、静けさが二人を包み込んでいる。しかし、リリアンナはふと、胸の中に不安な感覚を覚えた。
「何か、変ね……」
リリアンナは立ち止まり、森の奥に目を凝らした。カイルもすぐに察し、周囲を警戒するように目を光らせた。
「感じるか?」
カイルの低い声が静けさを破る。彼もまた、何か異変を感じ取っているようだった。リリアンナは小さく頷き、慎重に前へ進んだ。すると、彼女の目に入ったのは――
「……村が、荒らされている……?」
目の前には、森の奥に隠れるように存在する小さな村が、無惨に荒れ果てた姿で佇んでいた。家々の扉は破壊され、地面には倒れた木々や散らばった荷物があった。
「まさか……盗賊?」
リリアンナは唇をかみしめ、悲しげな目で村の様子を見つめた。カイルは無言で剣を握りしめ、村の中心へと歩み寄った。
「気をつけろ。まだ奴らが近くにいるかもしれない」
その言葉に、リリアンナも魔法を発動する準備を整え、カイルの後に続いた
村の中央にたどり着いたとき、二人はそこで数人の盗賊たちと遭遇した。彼らは倒れた村人から金品を奪い、笑いながらそれを袋に詰め込んでいた。
「なんてひどい……!」
リリアンナは怒りに震え、すぐに魔法を発動しようとしたが、カイルが彼女の肩に手を置いて止めた。
「まだだ、俺が先に行く」
そう言うと、カイルはゆっくりと盗賊たちに向かって歩み寄った。その静かな歩みは、まるで死神が無音で獲物に近づくかのようだった。
「おい、何だお前は!」
盗賊たちはカイルの存在に気づくと、警戒の目を向けた。しかし、その警戒も無駄なものだった。カイルが剣を一閃すると、盗賊たちは瞬く間に倒されていった。圧倒的な力に、リリアンナは息を呑んだ。
「お前たちに聞きたいことがある」
カイルは倒れた盗賊の一人に剣を突きつけ、冷静な声で問いかけた。
「誰の命令でこの村を襲った?」
盗賊は恐怖で体を震わせながら、何も答えられないでいたが、カイルの鋭い目に圧され、ようやく口を開いた。
「わ、俺たちは……ある貴族の命令で……!」
「貴族だと?」
カイルの眉が少しだけ動いた。リリアンナもその言葉に驚き、思わず盗賊の方に目を向けた。
「詳しく話せ」
カイルの冷徹な声に、盗賊は震えながら話し始めた。
「貴族って言っても……名前は知らねえ。俺たちはただ、金をもらってやっただけだ。村を荒らせって言われて……それだけなんだ!」
盗賊の言葉に、リリアンナは胸の中に不安を感じた。辺境の小さな村を襲わせる命令を出す貴族――一体何が目的なのだろうか。彼女はカイルの方を見上げた。
「貴族が、こんなところを……?」
カイルは考え込むように少し黙ったが、すぐに剣を引き、盗賊を解放した。
「行け。二度とこの地に足を踏み入れるな」
盗賊たちは震えながら、逃げるようにその場を去っていった。
◆ ◆ ◆
カイルとリリアンナは、荒れ果てた村の中央に佇んでいた。リリアンナは深い溜息をつき、視線を地面に落とした。
「こんなことが、ここでも起こるなんて……」
彼女の心には、かつて自分の家族が失墜した時の光景がフラッシュバックしていた。守るべきものを奪われた人々の無力さが、今ここで再び彼女に突きつけられた。
「リリアンナ」
カイルの低い声に、彼女は顔を上げた。カイルは冷静な表情のまま、彼女を見つめていた。
「ここでも、俺たちが守らなければならないものがある。お前もそれを感じているだろう」
リリアンナは彼の言葉を胸に刻み、小さく頷いた。カイルの言う通り、彼らがこの地に来たことにはきっと意味があるのだ。自分もここで何かを守るために、力を尽くす必要がある――。
「ええ、私たちが守るわ」
リリアンナは決意を込めてそう答えた。カイルは微かに頷き、二人は再び歩き出した。守るべきもののために、これからどんな試練が待ち受けているのかは分からないが、二人の絆がある限り、乗り越えていけると信じていた。
夜が更け、二人は再び焚き火の前に座っていた。リリアンナはカイルの横顔を見つめ、彼がいつも冷静で強いことに感謝しながらも、ふと疑問が湧いた。
「カイル……あなたは、何かを守りたいと思ったことがあるの?」
カイルは少し驚いた顔をしてリリアンナを見つめたが、すぐに答えた。
「かつては、そんな感情を持つことすら許されないと思っていた。俺は剣を振るうだけの存在だと信じていたからな」
その言葉に、リリアンナは胸が締め付けられるような気持ちになった。彼がどれだけの戦いを繰り返し、どれだけ孤独だったのかを改めて感じ取ったからだ。
「でも、今は……違う」
カイルは微かに笑みを浮かべながら、リリアンナを見つめた。
「今は、お前がいる。お前と共に戦い、共に何かを守ることが、俺にとっての生きる理由になっている」
その言葉に、リリアンナは胸が熱くなるのを感じた。彼の中で「守るべき存在」として自分がいることが、彼女にとって何よりも嬉しい証だった。
「私も……あなたと一緒に、これからも戦うわ」
リリアンナは微笑みながらカイルの隣に座り、二人は夜空を見上げた。新たな試練が待っているとしても、二人の絆があれば、きっと乗り越えていける。そう信じて、彼女は静かに目を閉じた。
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