第5話:「信頼の証と新たな試練」

辺境での生活に少しずつ慣れ始めたリリアンナは、カイルの助けを借りながら自分なりの生活リズムを見つけていた。だが、その平穏は長く続かないことを、リリアンナは何となく感じていた。


カイルが森に出かけ、リリアンナが一人で家を守るような日も増えてきた。彼の留守中、彼女は自身の魔法の練習を続け、魔力の感覚を少しずつ取り戻していた。


◆  ◆  ◆


その日、リリアンナは庭で魔法の訓練をしていた。彼女は目の前の小さな石を浮かび上がらせようと集中していたが、どうしても石はわずかに浮かび上がるだけで、それ以上は動かなかった。


「まだまだだわ……」


リリアンナは小さくため息をついた。確かに、昔に比べて魔法の感覚は戻りつつあったが、何かが足りない。もっと力を引き出すための鍵があるはずだったが、それが何なのかはわからなかった。


ふと、足音が聞こえ、リリアンナは振り返ると、カイルが森から戻ってくるのが見えた。


「訓練をしていたのか?」


カイルはリリアンナの前に立ち、無言で彼女の魔法の様子を見ていた。リリアンナは少し恥ずかしそうに頷きながら、彼に尋ねた。


「どうすれば、もっと力を引き出せるのかしら?」


カイルはしばし考え込み、彼女の目をじっと見つめた後、静かに口を開いた。


「力を引き出すためには、まず自分自身を信じることが大切だ。俺もそうだった。自分の剣に、自分の力に信頼を置くことが、戦いにおいて勝利をもたらす。君の魔法も同じだ」


リリアンナは彼の言葉を深く心に刻んだ。信じる――それが簡単なようでいて、リリアンナにとっては難しい課題だった。追放され、自分の価値を見失っていた今、それが最も足りないものであることに気づかされたのだ。


「信じる……自分を……」


彼女はその言葉を呟きながら、再び魔法に集中した。今度は心を落ち着け、深く自分の中にある力を感じ取ろうとした。その瞬間、小さな石がゆっくりと浮かび上がり、ふわりと空中に留まった。


「できた……!」


リリアンナの目が輝いた。カイルは無言のまま、微かに頷いた。それが彼なりの「よくやった」という合図だった。


◆  ◆  ◆


その夜、リリアンナはカイルと共に焚き火を囲んでいた。静かな夜の中、彼女は再び自分の魔法の力に目を向けていた。


「カイル……私、もう少し頑張れる気がするわ。あなたが信じてくれているから、私も自分を信じてみる」


彼女の言葉に、カイルは静かに頷いた。


「そうだ、君は強い。もっと自分の力を信じろ」


彼の言葉に勇気をもらいながら、リリアンナは自分の成長を実感していた。だが、その穏やかな時間は突然の出来事で一変した。


――大きな叫び声が、森の奥から響いてきたのだ。


「誰かが……!」


リリアンナは驚いて立ち上がった。カイルもすぐに剣を手にし、叫び声の方向に向かって走り出した。


「リリアンナ、ここで待っていろ!」


そう言い残し、カイルは素早く森の中へと消えていった。だが、リリアンナは立ち止まることができなかった。自分も力になりたい――そう思った瞬間、彼女はカイルの後を追って森へと足を踏み入れた。


◆  ◆  ◆


森の奥で、リリアンナが見たのは一組の親子が魔物に襲われている光景だった。カイルはすでに魔物に立ち向かっていたが、相手は一匹ではなく、数匹の魔物が彼らに襲いかかっていた。


「私も……!」


リリアンナは一瞬の躊躇もなく、魔法を発動した。自分を信じて――そう心に誓いながら、彼女は魔物に向けて強い光の魔法を放った。魔物が怯み、カイルはその隙を逃さず一瞬で二匹の魔物を斬り倒した。


「よし……!」


リリアンナの顔には安堵の表情が浮かんだ。自分の力が役に立った。彼女は再び、カイルに信頼されていることを実感した。


◆  ◆  ◆


魔物たちを全て倒した後、カイルは無言でリリアンナの方を見つめた。その目には何か言いたげな感情が宿っていたが、彼は何も言わなかった。ただ、リリアンナに歩み寄り、彼女の手を軽く握りしめた。


「君がいてくれて助かった」


その言葉に、リリアンナは胸が熱くなるのを感じた。自分の存在が、今ここで確かに意味を持っているのだ。カイルの言葉に力を得て、彼女はさらに自分を信じようと決意した。

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