第4話:「新たな力と守る決意」
翌朝、リリアンナは昨夜のことを思い出しながら、森の小道を歩いていた。辺境の静けさが彼女の心を少しずつ癒してくれるように感じていた。だが、同時に、心の奥底にはまだ満たされない感情が渦巻いていた。
「……私の力、まだ不完全だわ」
リリアンナは自分の手のひらを見つめ、かすかに輝く魔力の余韻を感じていた。カイルに助けられてばかりではなく、自分の力で何かを成し遂げたいという思いが強くなっていた。
すると、ふと目の前に何かが落ちてくる。顔を上げると、それは一羽の小鳥が翼を怪我して地面に倒れていた。
「大丈夫……?」
リリアンナはそっと小鳥を手に取り、優しく声をかけた。小さな生き物の痛みに共感し、彼女は再び手をかざす。父から教わった癒しの魔法を、もう一度試してみようと考えたのだ。
「どうか、治りますように……」
彼女は集中し、優しい光を小鳥の体に流し込む。すると、驚くほどスムーズにその光が小鳥の体を包み込み、怪我が徐々に癒えていった。小鳥は元気を取り戻し、リリアンナの手の上で小さく羽ばたいた。
「よかった……」
自分の力が確かに誰かを助けることができたことに、リリアンナは嬉しさを感じた。これなら、自分もきっと何かを変えられる。そう信じて前を向き始めたその時――背後から、聞き慣れた低い声が響いた。
「見事だ、リリアンナ」
カイルがいつの間にか、彼女の後ろに立っていた。驚いたリリアンナが振り返ると、カイルはその瞳に優しい光を宿していた。
「君の力は思った以上に強い。もっと自信を持つべきだ」
カイルは短くそう告げると、いつものように無言で彼女の隣に並んだ。リリアンナは彼の言葉に少し照れくささを感じながらも、その言葉が胸に深く染み込んでいくのを感じた。
「……ありがとう、カイル」
自信を持つ――その言葉が、今の彼女にとって最も必要なものであることに気づいたのだ。
◆ ◆ ◆
その日の午後、リリアンナはカイルと共に森の中を歩いていた。辺境の生活に慣れてきた彼女は、カイルの無言の優しさにも少しずつ安心感を覚えるようになっていた。だが、そんな穏やかな日々も長くは続かない。
突如、森の奥から何かが動く気配を感じた。リリアンナは足を止め、周囲に警戒を向ける。すると、草むらの中から数人の盗賊らしき男たちが現れた。彼らは荒れた格好をしており、手に武器を持っていた。
「な、なんですか……?」
リリアンナが警戒の声をあげると、男たちはにやりと不気味な笑みを浮かべた。
「お嬢さん、こんなところで一人か? さぞ、いい金になるだろうな」
その言葉にリリアンナは一瞬で恐怖を覚えた。だが、次の瞬間、カイルが彼女の前に立ちはだかる。
「リリアンナ、下がっていろ」
カイルは冷静に剣を抜き、盗賊たちに向き合った。彼の体から放たれる圧倒的な力に、男たちも一瞬ひるんだが、すぐに襲いかかってきた。
カイルの剣が風を切り、瞬く間に盗賊たちは倒されていった。その無駄のない動きと圧倒的な力に、リリアンナはただ息を呑むしかなかった。彼はまさに「死神」と呼ばれるにふさわしい存在だった。
数分後、すべての盗賊が地に倒れた。カイルは無言のまま剣を収め、リリアンナに近づいた。
「大丈夫か?」
その言葉に、リリアンナは小さく頷いた。彼の強さを改めて実感し、彼がどれほど自分を守ろうとしているのかを強く感じた瞬間だった。
「ありがとう……カイル」
彼は無言で頷くだけだったが、その静かな優しさがリリアンナの心に深く響いていた。
◆ ◆ ◆
その夜、リリアンナはカイルと共に小さな焚き火を囲んでいた。二人とも、今日の出来事を振り返りながら、穏やかな静けさの中で火を見つめていた。
「……カイル」
リリアンナは口を開き、彼の方を見つめた。
「私、もう少し自分の力を信じてみるわ。あなたが守ってくれると分かっているから、私も少しずつ前に進めそうな気がする」
カイルはその言葉を静かに聞きながら、少しだけ微笑んだように見えた。
「君が前を向くなら、俺はいつだって君の後ろにいる」
その言葉は、リリアンナにとって何よりも力強いものだった。彼女は少しずつ、自分の運命を自ら切り拓いていくことを決意したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます