第14話

受け入れない私に結弦が声を掛けてくる。

 


「渚、佐藤と仲良くしろなんて言わないから、チームの為の発言をしてくれ」


「…………」



 チームのためと言われたって……。

 


「世界で勝つには俺は必要な戦力だと思う」


「それは……、そうだけど……」



 確かにそうかもしれないけど……。



「真似てる奴なら他にもいるよ」



 100位代にもチームに属してない人はいる。【Apollo@】の弟子だから、こうしてコネで『ヴィクトリア』の方に入籍の話しが来ているけれど、eスポーツの世界でスカウトされることがどれだけすごくて、光栄なことか、佐藤はきっと分かってない。

 


「それは、例えば昨日の【ko-ma】のことか?」



 頭に引っ掛かっていた名前を結弦が上げたことに私は結弦を見て興奮した。

 


「知ってるの!?  なら、その人にしようよ!」

 

「渚、気付けぇ」



 悠斗のツッコミに私は首を傾げる。

 

 何を気付け……?



「佐藤くん、普段使ってるアカウント名は?」



 このタイミングでの中務さんの質問に、私はやっとあることに思い立って佐藤を振り返った。


 ────まさか!?



「えっと、その……。【ko-ma】です……」


「なっ!? ──ハッ! だから今日、対戦させたの!?」


 

 この前、私は中務さんに「どうでしたか」と聞かれて「敵として戦ってみたい」と言った。


 中務さんはその時既に知ってたんだ!


 

「まさか偶然にも二人が組むことになるとは思わなかったけどね」



 結弦がくすっと笑うと、中務さんまでもが微笑ましい表情を浮かべて言った。

 


「このチームは渚が主軸の攻撃隊ですから、渚さんが一緒に行動してやりやすい方か、興味を持った人の方が良いかと思ってたので、まさか佐藤くんを褒めるとはびっくりしました」


「コイツだって分かってたら褒めたりしなかった!!」



 あの時に戻りたい……!


 何で【ko-ma】を褒めたりしたんだろう。幸真から直ぐに気付いても可笑しくなかったのに!!

 


「けど渚は、佐藤くんみたいなのを求めてるんでしょ?」


「それは……!」


 

 弓弦も中務さんも分かってて、この対戦を仕組んだんだ!



「ずるい! それはないよ!!」



 思わず立ち上がる私に、結弦が真剣な表情で見つめて来た。



「渚、いじめなんてもう起きない。──もしもまた、佐藤がいじめるようなことがあったら、その時はちゃんと守ってやるから。俺達を信じろ」



 そう言われたら黙るしかなかった。


 

「……本当に仲良くしなくて良い?」


「あぁ、良いよ。佐藤もそれでも良いな?」


「はい。自分でも何をしたのかは覚えてます」



 佐藤の殊勝な言葉は信じられないけれど、篤人も結弦も味方だと言ってくれた。


 悠斗もきっと、口では気に入っているといっても、間違っていることを見過ごせない性格なのは、何年も一緒にいて分かってる。


 正直、ハメられたのはムカつくけど……。弓弦がどうしてもと言うなら、しょうがない。



「──分かった」



 そう頷いて、今日初めて佐藤をちゃんと見つめた。


 

 「仲間に入っても良い。けど、過去の恨みは絶対に許さないから。例えゲームで、一万回殺しても足りない」


「あぁ。俺のことは許さなくていい」



 真摯に私の向き合おうとしているのがなんとなく伝わって来て、それがなんだか悔しかった。


 ずっと憎んでた気持ちが無意味に感じてくる。


 ぎゅっと掌を握り締める。


  

「取り敢えず私には必要以上に話かけてこないで、近寄るのもダメだから」


「分かった。渚」



 睨みつけると、それでも佐藤は寂しそうに笑った。



「ありがとう。それと、中学生の頃、いじめてごめん」


「──部屋で休んでる」



 どうして、今更……!


 思うことは沢山ある。けど、それ以上は何も言わずに部屋から出た。


 直ぐに弓弦も出てきて向き合う。結弦は何も言わずにただ頭を撫でてきた。


 不本意な決定だけど、チームに必要なら少しは許容しないといけない。


 プロゲーマーも仕事だ。子供みたいにわがままを突き通すのは大人のすることじゃない。



「無理させて、ごめんね。ありがとう」



 結弦の囁きに首を横に振る。


 大丈夫って言えないのは許してほしい。

  

 いじめは起きないと弓弦は言ったけど、佐藤のことはまだ信用ならないんだ。


 どれだけ謝られても、今は建て前上そう接しているにすぎないと思う。


 結弦と別れると、部屋に入って小さく叫ぶ。

 


「猫かぶりめ……!」

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