第10話
それから数日が経って、中務さんと弓弦で密かに話しをしているのを見かけつつも、私には佐藤の話しをしてこなった。
私を説得させようとしているのか、佐藤を違うチームに入れるように交渉してあげているのか、詳しい話の内容は良く分からないけれど、積極的に面倒を見てあげてる様子から察するに、中務さんと弓弦は佐藤のことを随分と気に入っているようだ。
それがゲーム中のプレイをなのか、はたまた人柄なのか、もしくはその全部なのかは分からないけど、相変わらず佐藤は人の心を掴むのが上手いらしい。
(面白くない……)
だからと言ってどうこうするつもりなんてないが、未だに燻ってる佐藤への恨みがぶり返しそうだった。
夜のトレーニング中、弓弦とデュエット戦をしているとふと面白い人と同じチームになった。
「へぇ……」
【ko-ma】と言う人で、私と同じ単身で敵地に乗り込んで行くようなタイプで、悪くない動きだった。それも、私の師を再現したような動きだ。
私の師である【Apollo@】を真似るような人は大勢いる。何事も上手くなる為にプロゲーマーの動きを参考にしている人は多いだろう。
それ自体は特に興味を注がれることはないが、この人は他の人とは違った。“真似”と言うよりも“再現”に近い。
(すごい研究しているんだな……。ま、私には叶わないけど)
直弟子である私が負けるわけにはいかない。そんなことを思ってキル数を稼いでいると、【ko-ma】のキル数も追い上げるように最終ステージで活躍していた。
その内、敵陣で合流することになり、示し合わせずともタッグを組んでリスポーン水晶がありそうな付近とやって来ていた。
破壊したのは【ko-ma】だ。
私が銃撃戦で相手を誘き寄せている間に、水晶の場所を見つけたらしい。
その試合が終わると、私はコントローラーをテーブルに置いて伸びをした。
すると、モニターで警備していた中務さんが私に話しかけて来る。
「渚さん、今の人どうですか?」
「今のって【ko-ma】のこと? 悪くなかったよ。再現度も高かったし。今度は敵として戦ってみたいね」
そしたらきっと楽しいだろう。
師匠は今じゃもうプレーヤーとして活動してないから手合わせすることがなくなった。
唯一の熱中出来る対戦相手だった故に、引退した時は楽しさが半減したような気分だったけど、周りが私の対策をして頑張ってくれているので、どうにかゲームの熱意は失わずにすんでる。
この人はきっと、そんな私を楽しませてくれるだろう。
「そう、ですか……。敵として……」
翌日、マネージャーと弓弦から残るように言われた。
一週間も経ってない上でのことだったので、何を話したいのかなんて、必然的に分かってしまう。きっと、アイツのことだろう。
「何を話そうとしてるのか分かってる顔ですね」
「そう怒らないで聞いてくれ」
「…………」
話したくなんてなかった。どうせ、アイツを仲間にすることに同意して欲しいんだろう。
「そんなにアイツが良いの?」
「はい。これから世界一を目指すのに、そして、渚さんと佐藤さんの今後のことを考えて」
「私とアイツ……?」
「佐藤は【Apollo@】の最近の弟子だよ。このチームに入れて欲しいと言ったのも【Apollo@】がメールで送って来たんだから」
「え……? なんで?」
「渚が今後、成長する上で必要な存在になるだろうと。実際の契約は本人と俺たちに任せるって」
「私が成長する上でって、本当に言ったの? どうしてそんなこと……。師匠は何を考えているの……」
「それが分かるとしたら渚だろうね。俺たちも急にこんな話しが来て戸惑ってるんだから」
「以前、篤人くんが引退する時に後任の話しは本部の知り合いと話したことがありましたが、まさか【Apollo】から接触してくるなんて思ってもませんでしたよ……」
「────」
「それで一つ、渚に提案がある。佐藤と対決してみない?」
「……対決?」
「そう。今までの恨みを晴らす意味でも、佐藤と対決する。その戦闘を見て渚が少しでも良いと感じたら仲間に入れる」
「……勝ったらじゃないの?」
「渚は国内トップで、向こうは上位ランクと言っても300位代だよ。俺でも勝てないのにそんなの厳し過ぎでしょ」
「……私がやっぱり嫌だってなったら?」
「その時は他のチームと契約させるさ。【Apollo@】にも事情を説明して納得してもらう」
──────。
……それなら、……それなら一度くらいは戦っても良いかもしれない。
私が認めなきゃ良いんだから。
「──分かった。それで良い」
それで納得してもらえるなら、徹底にアイツを泣かしてやる。
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