第7話
なかなか勝てないことに口調が荒々しい物に変わってくると、お兄ちゃんに苦笑いされるようになった頃。
【Apollo@】と云うアカウントからフレンド申請をされた。
いつものようにどんな人だろうと思いながらも受諾して、スタンプで挨拶をする。
そんなスタンプに返って来たのは堅苦しいほどの文書と、箇条書きにされたアドバイスだった。
最終はムッとして無視しようともしたけれど、まぁ、一応注意してあげなくもないと最初に書かれたポイントを遂行して見せた。
すると、すんなりと勝てた。──いや、当たりやすくなった。
その事実に悔しいものあったけど、いつも負かされていたステージで、状況で、相手の弾を避けれようになったことに段々とゲームの先生として敬うようになった。
こんな方法があったことに【Apollo@】の言うことに興味が惹かれた。
こんな人がランキング下位にいるはずはない。そう思って探そうしたが、ランキングの一覧ページを開いて直ぐ見つかった。
【Apollo@】はゲーマーたちから“神”と呼ばれるに相応しい位の高い人で。
まだまだアマチュアな私でさえも、手が振るえてコントローラーを落としてしまうほどプロとして活躍している人だった。
「あ、ハハッ……」
不自然に口角が上がった口からは、乾いた笑みしか出せなかった。
ガツンッと頭に衝撃が走る。
(なんで、私に……?)
──と、疑問を抱いて。
(いや、そもそも本物?)
──と、疑ってしまう。
でも、同じ名前を使っている人はいない。そんな人がいたらファンから通報されるレベルのすごい人なのだ。
つまり、本物と云うことなのだろう。
「なんで、私にこんな文を……??」
訳が分からなくなったけど、折角の繋がりに私は忠実に実践しようと、食事も忘れてゲームにのめり込んでいった。
学んだことは“センス”と“能力”となって、身体に吸収されていく。
「おいっ! 渚!? 流石に出て来い!?」
「あ……」
その声に現実世界に戻されたのは、自身のランキングが36位に登り詰めた時だった。
脱水症状に似た力の失くなった身体を引きずるように扉を開けると、お兄ちゃんと両親の顔を見て自分自身でも呆れてしまった。
なんとバカだったことか。後になって丸一日飲まず食わずにいたことに、自分でも反省した。
ゲームって怖いなぁ……、なんて感想を初めて抱いた。
翌日の一日はゲームをしないように言われた。とは言え、【Apollo@】との繋がりを切りたくなかった私は、事情を説明してメールだけ許してもらった。
あと数時間遅れていたら入院することになっていた指先も、握力も枯れているので、試合をする気にもならない。
まぁ、次の日には復帰したんだけど……。
両親はまた同じことが起きないか心配をしていたが、【Apollo@】はプロゲーマーとして、決まった時間にログインいているようで、付きっきりで教えてもらっている私も倣うように規則性が出てきた。
お昼前に起きて、食事や休憩を2回取って、遅くても深夜2時には就寝していた。
それから3ヶ月が経って、季節が移り変わる頃に私のランキングは1桁台にと上り、ある日、『Apollo@』から知り合いを紹介された。
紹介と云うよりも仲介とも言える話しに、連絡を教えてもらったのが『ヴィクトリア』の弓弦だった。
あの時貰った弓弦からの内容は丁寧な言葉で、「プロとして一緒に活動して行かないか」と云う話しだ。
私を受け入れてくたみたいで嬉しい誘いでもあったけど、他人と仲良くプレイが出来るか不安もあって。
実際に出会って、やっぱり無理だったって、いなくなって欲しいって、そう言われたらと思うと怖くて踏み出せずにいた。
それなのに……。心を見透かしたかのように、優しい言葉を弓弦とメンバーたちから投げつけられた。
「【NAGISA】さんのプレイが必要だから」
「きっと一緒にいたら楽しと思う」
「だから、一度会ってみませんか?」
「渚さんのことをもっと知りたい」
「大丈夫。どんな性格でも、僕たちは君の味方になれると思う」
なれるなんてハッキリと断言してしまうことに、無責任な言葉だと思ったけど、文面からは優しさしか伝わってこなくて。
いつの日か、この人たちに会ってみたいと思えた。
怖くても歩み寄ってみたいと、初めてそう思えたのだ。
初めてましては、お母さんとお兄ちゃんを連れてファミリーレストランで待ち合わせをした。
あんな言葉をくれたみんなは本当に言い人で。弓弦さんと中務さんの誠意と、離れたテーブル席にいた悠斗と篤人の二人とは直ぐに打ち解け合えた。
生活習慣も、過去に受けたいじめの傷痕も、ひっくるめて受け入れた中務さんと弓弦の説得に、お母さんとお兄ちゃんも安心したようで、私は家から出てこのシェアハウスへとやって来た。
安心して過ごせる人がいるこの家は私の縄張りだと、今ではそう思っていて。
仲間をバカにされたら一緒に怒ってやろうと心から誓って思えた。
きっとみんなも同じ気持ちだって思ってる。
だから、素直な感情を表にだして、私は目の前に現れた数年振りの敵に対して威嚇した。
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