第6話
中学1年生に進学した私は一人で読書をいることが多く、物静かな性格をしていた。
けれど、クラスメイトと仲が悪かったわけじゃない。反発したことなんてなかったし、事務的なやり取りは普通に出来ていた。
──なのに。
目の前にいる男がちょっかいを出して来てからは、佐藤に惚れていた女子たちに目を付けられて生活は一変したのだ。
視線が厳しくなり、他の男子たちも揶揄って来るようになった。
それが女子たちの気持ちを煽り、最初は睨まれたり陰口を叩くだけだったのがだんだんとエスカレートしてきたのだ。
足を引っ掛けられるくらないならまだ良かったかもしれない。
そう思えるほど、私物が紛失したし、見つかったと思ってもイタズラ書きをされたり、切り刻まれてボロボロにされていて、使えなくなることに困り果てていた。
そして、最終的にはトイレで水をかけらて、クラスメイト全員からの白眼視に私はとうとう耐え切れなくなったのだ。
……ただ一人の時間が好きだっただけ、周りの人間が嫌いだったわけではない。
ましてや、学校の人と喧嘩なんてしたくなかった。
普通に仲良くなって、趣味を共有できる人がいればそれだけで良いと思っていたし、そんな相手が欲しかった。
それが経った3ヶ月でクラスメイトの全員が敵にまわり、私は孤立した。
下手したら1学年の殆どの女子から嫌われたかもしれない。それくらい佐藤幸真は好かれていたから。
当の佐藤幸真もピリついた空気の中でも話し掛けてきて、徹底的に私を孤立させに来ていた。
同じクラスだから逃げように逃げられず、唯一の大人である担任先生は他の女子生徒と仲が良いため、敵になる可能性の方が高くて頼りにならない。
味方のいない学校と言う狭い箱で、大勢からいじめにあうのは心身共に疲れる。
短時間で希望が見つからない状況に疲弊していった私は、3学期に入る前には不登校になっていた。
そして、外に出るのも怖くなって。徐々に部屋にいる時間が長くなっていった。
引き篭もるようになったのはいつの頃からか分からない。
ただ息をしているだけも辛くなる毎日に、生活習慣を気にしてる余裕なんてなかった。
両親は一人娘が部屋から出て来なくなったことに学校での事情を悟ったらしく、私を無理に部屋から出そうとはしなかった。
お陰で食事の時は両親と顔を合わせられるようになって、それ以外は部屋に篭もる習慣が出来上がった。
もしかしたら立ち直ることを期待していたのかもしれない。けれど、当時の私は生きることに精一杯だったため、両親が何も言って来ないことにすごく安心していた。
──それから、1年が経った頃。
シューティングゲームに出会ったのは、従兄弟のお兄ちゃんからの気遣いだった。
学校の学力は今時、資格と言う物がある。
最悪、お兄ちゃんが家庭教師として教えてくれればいいと両親は判断していたらしいが、問題はこのまま大人になった時に仕事をどうするのかだった。
勉強は従兄弟たちがいれば学校に行かなくても家庭教育で補える。けれど就職はそうはいかない。
悩んだ両親は従兄弟のお兄ちゃんと相談して、私の将来のことを心配してくれていた。
私がその話しを知っているのは、度々部屋の前にやって来たお兄ちゃんに聞かされたからだ。
その時に将来のことをどうしたいのか聞かれた。
自分でも考えていたけど、もう、外は怖い。それが偽りのない本心だ。
それに人付き合いが下手なのは分かりきってたから。また同じことが起きるのは目に見えてる。
定時制や通信制への編入も考えてみたし、インターネットで出来る仕事を探してみたりもした。
それでも自分のしたいことが分からなくて、どれもパッと気持ちが変わるようなことは見つからなかった。
そんな私に道標を指し示してくれたのが、懲りずに足を運んでくれたお兄ちゃんだった。
お兄ちゃんの友達にゲーム好きな人がいたらしい。それで稼いでいる人もいるのだと教えてくれた。
もともとゲームは嫌いじゃなかった。家族で楽しむ用の家庭用ゲーム機だってリビングの隅にひっそりと置かれているくらいだ。
私はお兄ちゃんの友達の協力もあって、PCをインターネット回線に繋ぎ、eスポーツチームのあるような友達から勧められたゲームを片っ端からやってみることにした。
その中のシューティングゲームが私の人生を変える最初の一歩になった。
ネットで武器や攻略の方法を検索して学びながら勧めているといつの間にかランキング上位に入っていて、フレンド登録した人が何十人もいて、他人との繋がりが持てるようになっていた。
顔を見せずにすむことに安心感があって、言葉遣いもちょっとのことでは喧嘩に発展したりしない。
それくらい相手の人柄に恵まれていた。
楽しかった。
笑顔がやっと荒んだ感情の中から見つけることが出来た気がしたのだ。
相変わらず外に出るのは怖かったけれど、家の中で安心出来る人たちに囲まれて、文面だけの外の繋がりを持てる環境は少しずつ、けれど、確実にリアルの世界でも組み立てられて行くような気がした。
「楽しいか?」
「楽しい! 今ね、ランキングでトップ100に入ることを目標にしてるんだ」
「あらそうなの。100人に入ることが出来たら何かお祝いをしなきゃね」
「本当!? そしたらね、お願いがあるの」
「なんだ?」
「通話が出来るヘッドフォンがあるみたいなの。高くなくてもいいの。けど、フレンド登録している友達と会話しながらゲーム出来るらしくて、それが欲しいの」
そんなお強請りに両親は泣きそうな笑みを浮かべながら頷いてくれた。
そんな両親に驚いて、何故か私までもらい泣きしてしまったけれど、あの日の涙は私の感情に新しい感情を植え付けた気がする。
けれど、ゲームの世界の上位と言うとは中々厳しいものだった。100位代くらいにはなんとか食い込めるが、私より強い人はごまんといることを教えられた──。
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