第4話
トレーニングルームからリビングに移動して来ると、既にテーブルには中華料理が三品並べられていた。
刺激的なスパイスの匂いにお腹が鳴って食欲が湧き上がってくる。
今日はオードブルらしい。大皿に乗ったチャーハンをご飯に、エビチリやら焼売やらを小皿に分けながら、マネージャーとコーチが世界大会の試合動画を分析した『IFT』のメンバーのプレイ傾向を聞く。
「『IFT』は去年のデータしかないので、その情報を元に後は試合中で各々対処してください」
そう言って中務さんは話しを締め括った。
なにせ『IFT』は去年新しく茉莉亜を迎えたばかりの新体制のチームだ。
世界大会から数カ月経った今、どのくらい連携出来るようになったのか、個人でも成長して来ているかが分からないので作戦を立てるほどのデータが揃ってない。
分かっていることを強いて言えば、茉莉亜個人は随分と成長したことが普段のデュオから感じられることくらいだ。
それに、『IFT』のメンバー数もだけど、私たちのチームもベンチがいない。
それはつまり、出る選手は決まっていると言うことだ。他3人の情報は既に持っているし、私たちのプレイスタイルのデータも相手は持ってる。
(まぁその情報も来月には改変することになるだろうけど……)
メンバーの一人である篤人は、新しい人が来たらその人と交換して今月末には名簿から除名されるこが決まっている。
その後はトレーナーとしてチームに残ってくれることになっているので、ルームシェアはそのまま続けるらしいけど、公式試合で篤人とは一緒にプレイ出来なくなった。
夕食を食べ終わると食休みに練習試合の前まで部屋で寛ぐことにした。
小皿とコップだけ片付けてリビングを出ると、ベースに来ていたたらしいコーチとすれ違がった。
その時に期待のこもった言葉を掛けられる。
「今日もよろしくな」
「うん。任せていいよ」
ハッキリした口調で返すと、コーチはフッと笑って通り過ぎ、リビングに入って行った。
私は世界大会第3位『ヴィクトリア』メンバーの一人だ。 個人では世界ランキングトップ10入り、国内ランキングでは1位の最長記録保持者として注目されている【NAGISA】である。
試合のそれが非公式であろうと、公式であろうと、いつだってチームを勝利に導く力を求められている。
練習試合だからといった重要性は関係ないのだ。
自室のベットに倒れると目を瞑る。それから意味もなくゴロゴロと転がると携帯のアプリを開いた。
空き時間は音楽ゲームをするのが私のルーティンでもある。
未だクリア出来てない難度で曲を選ぶとフルコンボを目指して夢中になていた。
しばらくして時間になると弓弦が呼びに来て、全員がトレーニングルームに集まり支度をする。
手を解しながら相手のチームと配線が繋がるのを悠斗と篤人と会話をしながら待った。
中務さんとエンジニアの人が『IFT』の人と連絡を取り合いながら中継が繋がると、さっそく試合が始まった。
これまで練習試合を重ねて来た相手だけあって、ゲームは接戦だった。
キルした数もされた数も互角。ちょっとの差でリード出来てるのは私が表立って自由に行動出来てる強さがあってこそだろう。
国内ランキングで1位を保持しているプライドと自覚している性格からして、二人で行動するよりも自由に動き回れる方が良かった。
それを弓弦たちはしっかりサポートしてくれて、私は何回かの試しにやっと
「──よしっ!」
「ナイス、渚」
「お見事です。このまま油断せずに次も頑張って下さい」
そう言って直ぐに第2ラウンドが開始されると、リーダーの智幸を中心に反撃して来て守りに転じた。
すると茉莉亜のエージェントが現れて対峙することになる。
「悪くないね」
仕掛けてきたタイマン勝負に、私は容赦なく2つの拳銃を握り締めて銃口を向ける。
「そうですね。渚さんのことは茉莉亜さんが一番良く分かってますから……」
画面を見ていた中務さんがそう言うと、弓弦が指示を出した。
「篤人、ここは僕と悠斗に任せて突破出来る?」
「偉い賭けに出るな?」
「茉莉亜が渚にくっつくならそのまま引き付けて貰えれば、長年戦ってきた僕たちで年長組の連携はどうにか出来ると思うんだ」
「わかった。隙を見て離れる」
「うん。よろしくね」
篤人は一度下がると、悠斗のフォローを受けながら攻防戦を交換した。
「うしッ! 篤人、行け!!」
そんな会話を聞きながら、私は茉莉亜との対峙を長引かせていた。
ここで茉莉亜をキルすれば篤人と鉢合わせる場合がある。だから致命傷を与えないように木陰を使いながら闘っていた。
それから集中力が途切れそうな時に、篤人が水晶を破壊したらしい、画面が止まって「Winner」の文字が現れる。
やっと終わったことに溜め息を零してコントローラーをテーブルの上に置く。
「危なかったですね」
「篤人すげぇじゃん! 涼倒して水晶破壊なんて久しぶりじゃね?」
「あぁ。どうにか涼に勝てて良かった」
「流石、篤人だね。任せて良かった。渚も引き付けてくれてありがとう」
「うん。まだ余裕だよ」
その後も3ゲーム試合をすると4対1と言う結果で、予定時間よりも15分前くらいに練習試合は終了した。
この後は夜食の休憩を挟んでから反省会をすることになっている。
お粥と煮魚の和食膳を食べて一休みしている間、マネージャーは試合の録画を見ながら今日の動きをチェックしている。
「このあとは反省会して、自由?」
「そうだよ。明日も練習試合があるから反省会は長めだね」
明日の相手は『NDスポーツ』だっけ。
そんなことを思っていると、目の前に座っていた悠斗が私が手をつけた漬物を指しながら聞いてきた。
「なぁ、それ美味い?」
「普通……」
「普通? なら、食べてみるか」
「多分、悠斗は好きだと思うよ」
躊躇っていた箸を粘り気のあるオクラに伸ばして掬うと、悠斗はパクリとそれを食べた。
数回噛むとおおよそ男ぽくないパっと花が咲いたように明るい笑顔を浮かべて叫んだ。
「ん! うめぇじゃん!」
やっぱり好きだったか。
私の舌は長年食べ物をシェアしてきたかいあって、悠斗の好みをハズさなかった。
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