1Kill
第3話
カーテンの隙間から漏れる光に目が覚めた。
もそもそと起き上がると閉じかけの寝ぼけ眼でしばらくぼぅっとする。
元々は植物と勉強机があったこの部屋は、今では長年集めてきたポスターやタスペトリーが壁に飾られていて、いかにもヲタクな部屋へと変わっている。
「……ふわぁ。今日は練習試合があるんだっけ」
部屋を出てリビングに行くと、同居人の
「おはよう」
「おはようさん。また荒れたんだってなぁ?」
「なんのこと?」
悠斗の面白がっている言葉に首を傾げると、キッチンにいた
「昨日の配信だよ。すごく盛り上ったんだって?」
「あぁ。うん、みんなはしゃいでたよ」
「そこを詳しく話してくれませんか?」
「えぇと、ムカつくプレーヤーがいて、私を狙い撃ちにして来たから倍返しにしたの。そしたら30回近く殺してたみたい」
「それはまた随分と……」
そう呟いて中務さんは黙り込み、その隣で悠斗が「怖ぇ」と囁いていた。篤人は苦笑いを浮かべている。
みんなの反応に気にせずソファの空いている所に座ると、平然としている私に結弦が優し声で宥めてきた。
「ムカつくのは分かるけど、あまりいじめないようにね」
「向こうから狙って来たんだもん」
頬を膨らませて身の潔白を訴えると、弓弦はそれ以上何も言わず苦笑した。
「お茶いる?」
「いる」
テーブルには今日の日程表が置かれていて、それに手を伸すと、中務さんが直ぐに書かれている内容を口頭でも教えてくれる。
「今日の日程は午前中にトレーニング。午後に『IFTスポーツ』との練習試合が控えています。新メンバーとは言え手を抜かず油断のないように」
eスポーツは今の時期、世界大会が終わってオフシーズンに入る。とは言え、大会がないわけじゃない。
プレーヤーの人気やeスポーツの注目度の維持と感心を深める為に、非公式戦だが協会催しの国内大会をシーズン半ばに開催しているのだ。
その為の練習試合を山程組まれるのが『ヴィクトリア』の日常でもあった。
午前中のトレーニングをしていると、『IFT』の茉莉亜からメールが来た。
敵チームと言えど、eスポーツ界隈は基本的に仲が良い。もちろん恨みをかわれたり、因縁が絡んでくると仲の悪いところも出てくるが、その辺は勝負の世界なのだからどんな理由であれ相手に勝ちたい気持ちがあって当たり前だろう。
ゲームの世界は特に女性が少ないので、プロチームに入ると仲間意識が生まれてくるものでもあった。
メールボックスを開いて書かれている文字を読むと、ヘッドフォンを外して中務さんを見る。
「ねぇねぇ」
「なんですか?」
「『IFT』の
「良いですよ」
今では妹のように思っていて、一緒にゲームをしながら話しをする仲だ。
通話機能を繋げるとヘッドフォンから声が聞こえた。
『渚ちゃん、聞こえてる?』
「うん」
『ランク上げに付き合ってくれてありがとう。実家に一週間帰ってたらもうランキングが落ちててさぁ』
「そうだったんだ。何かあったの?」
『20歳のお祝いをしてくれたんだよー』
「あぁ、良かったね。──今日は遠隔爆弾を持って行こうかな」
『はーい』
装備を選び終えると、他のメンバーを加えた四人チーム戦でゲームが始まる。
起爆剤を設置して人が来たら爆発させながら千尋のバックアップをしていると、同じプロプレヤーと対戦していることに気づいた。
「……試してみようかな」
『何を?』
片面の地図を開きピンを立てると起爆剤を設置して直ぐに茂みに隠れた。
「茉莉亜さ、ピンを立てた所に誘い込める?」
『なんか嫌な予感しかしないけど、出来るよ』
私の戦闘スタイルを知っているから訝しむ茉莉亜だったけど、しばらくして茉莉亜のエージェントが交戦しながらやって来た。
通り過ぎて敵が現れると、私は起爆剤に向けて引き金を引く。
カンッと小さく音がすると、瞬間、ドカァンと音を立て爆発し、敵プレヤー二人が炎に包まれた。
「単純な手口に引っかかるって頭が硬い証拠だよね」
『そ、そうだね……』
「そろそろ制限時間だ」
『ご愁傷さまだなぁ』
それからランクマッチを何回かすると、茉莉亜のランキングはあっという間に上位に上がっていて、それぞれのトレーニングに戻る事にした。
『今日はありがとう。後は自分で上げてくよ』
「うん。頑張って」
『うん。そう言えば新人を見つけたんだよね? 来月の練習試合では顔を合わせられるかな』
「そうだね。こっちも今週中に顔合わせがあるって言われたから」
『どんな人か楽しみだね』
「別にどうでも良いかな」
『もう! 仲間になる人なんだから気にしようよ』
「良いんだよ」
『まぁでも。弓弦さんが連れてくる人だもんきっと良い人だよね! ──あ、リーダーに呼ばれたから離れるね』
「うん。じゃぁ、またね」
『うん。午後の練習試合で、また』
茉莉亜のログアウトを確認すると、私も休憩しようとヘッドホンを外した。
そんな私に気付いて中務さんが立ち上がった。
「渚さん、終わりましたか?」
「うん」
「では、トレーニングはここまでにしましょう。午後の作戦に付いては夕食を食べながら話しますね」
時計を見るといつの間にか15時を回っていたらしい。
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