第2話

このFPSゲームは、eスポーツ界隈でも絶賛人気を集めているシューティングゲームだ。


 タイトルは『GGKガンガンキル』。大変陳腐なネーミングである。


 キャラクター独自の能力差やスキルは存在せず、シンプルなゲームシステムを採用し、プレイヤー同士のテクニックやプレイングによって勝敗が決まる実力重視のシューティングゲーム。


 個人戦とデュエット戦、それと、チーム戦のパターンがあり、キル数やリスポーン水晶の破壊によって勝敗が決まる。


 制限時間有り、回復リスポーン有りの、試合終了まで戦い続けられるこの銃撃戦は、ゲーマーたちを虜にしていた。


 そして、この私もその一人だ。


 ランクマッチが始まると、開始3分で私のイライラはMUXに達していた。



「──チッ、うざい。戦うつもりがないなら前衛でウヨウヨすんな」



 言いながら目の前で逃げ回る目障りな敵に照準を合わせると、カチカチとコントローラを連打した。


 3点バーストの愛用銃から3つの弾が飛び出して敵に襲いかかり、その一つが頭に命中する。


 相手は倒れるとリスポーンへ送られたのか、その場から姿を消した。


 邪魔者を排除し終えたのも束の間、今度は近くの足元で弾が跳ねた。


 距離を取りつつ右を向くと、ゴツい男が私を狙っているのが視界に入る。



「私に撃ったな? スナイパーがバックアップなしに良くここまで来れたな」



 数歩移動するとスコープを一瞬だけ覗き、方向だけを合わせて引き金を引いた。すると、今度は心臓へと命中した。


 これで、現在のプレヤーキル数は16回に上り、チームの総合では56ポイントとかなりの高得点になる。


 二人立て続けに殺した私は、枠外のコメント欄の勢いも増していった。



〈エイムやば〉


〈スコープの意味w〉



 そう言ったテクニックを褒めるものもいれば──、



〈舌打ちがきこえた……〉


〈安定の荒れw〉



 ──と、ゲーム中での口の悪さを指摘する声も上がった。


 視聴率はまだまだ上がり続けていて、後から参観して来た人たちでつぶやきは埋め尽くされていた。


 配信開始に呟かれた『毒舌配信』と言うのは、ゲーム中に私が吐く暴言から由来が来ている。


 観ている人たちはそれが面白いようで、フォロワーの殆どが毎回、毒舌を聴きに見に来てくれているのだ。


 1時間くらいゲームに白熱すると喉が乾いて、一度離脱することにした。


 

「休憩します」



 そう言ってゲートから出ると、どうやら視聴者はいつの間にか7万人近くいたらしい。知り合いのアカウントからも個別メッセージが来ていた。


 ライブ配信でここまで集められるゲーマーアカウントは滅多にいないだろう。


 お陰で男性が多いプロゲーマーの界隈で、女の私を必要とし続けてくれていているのは、一重にこの面白半分の大衆のお陰だと思っている。


 プロチームで居続けるのには実力も必要だけれど、配信時間のノルマや、ランキング入りも重視させれてくるから、こうして集まってくれることに感謝している。


 それに、投げ銭での稼ぎも関わってくるのだから、フォロワー数は多いことに限るのだ。


 ライブ配信でだいぶ貢献している私は、チームメイトの弓弦と悠斗よりもノルマがゆるく、総合的な配信時間も短く済んでいた。


 なりより、顔出ししないで済んでいるのはとても嬉しいし、私のプレイを大勢の人が認めてくれることが、私にとっての“存在意義の肯定”だった。



「やっぱりゲーム好きだな……」



 そんなぼやきが聞こえていたのか、落ち着き初めていた右側の長方形の画面が文字や絵文字で埋め尽くされる。



〈ぎゃぁぁぁぁぁ!〉


〈イイ声ぇぇぇぇぇ!〉


〈デレた笑〉


〈可愛い、可愛い。もっと聞かせてw〉


〈変態は出て行け〉



 常連のアカウントが反応しあって、会話するコメントがどんどん流れていく。



「…………」



 褒めてくれるコメントは正直嬉しい。 けれど、長年コミュ障を患っている私は騒がしい人たちをどうすれば良いのか分からず、話しかけることも出来ずに無反応を決め込んでいた。



(……人と関わるのは今でもやっぱり怖い)



 こうして今では沢山の人に守られているけれど、何が原因で離れていくか分からない人間相手のコミュニケーションは、10年以上経っても安心するものじゃなかった。



〈もっと【NAGISA】のプレイ見たい。早く続きをぉ〜〉



 そんな声が上がりはじめた頃、私のやる気も浮上して来て、コントローラを手に取った。



「──開始します」



 暗い声音がマイクを通してスピーカーに流れる。



〈待ってましたぁぁぁぁ!!〉


〈ガンバレ( ˙꒳​˙ )⚐”〉



 一万人からの声援が目に見える形で贈られてくるのを目端で捉えつつ、始めた頃よりも大勢のアバターが集まっているスタートゲートへと近づき、私は戦場へと足を踏み入れた──。

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