一万回殺しても足りない
五菜みやみ
START
第1話
マイク付きヘッドホンを付けると、カーソルを動かして『開始』をクリックした。
すると、
「──今日は11時頃まで配信する予定です」
女性にしては低いハスキーボイスでぼそぼそと呟くと、画面の右側、枠外となっているコメント欄に視聴者からのコメントがひっきりなしに湧き上がった。
コメントを何気なく眺めがら、大きな画面では自身の分身であるアバターを動かして、データ保存をする場所として建っているビルから外に出ると近くの小さな建物に入った。
中は武器屋になっていて、銃がびっしりと壁に掛けられている。
受付けにいるNPCのモブキャラに話しかけるとフォルダ画面が切り替わり、手持ちの武器がずらりと並んでいた。
この建物は武器や防具の確認とセットアップをする所で、ゲームスタート時に必ず寄るところだ。
そんな時、コメント欄に出てきた一言に、私はふと手を止めた。
〈毒舌配信待ってましたぁ!〉
それを見て手を止めたのは一瞬のことで、画面からでは違和感を感じさせない僅かな間だった。
それは、未だに寄せられる約五千人からのコメントで、止まったことを疑問視されてないことから分かる。
書き込まれていた『毒舌』は私自身でも頷いてしまうほど言い得て妙な話だ。
その言葉に“ファン”として見ている誰も反論しないし、そもそも反論なんて出来ないだろう。
無言のままアバターに背負わせるメイン銃器を選ぶと、今度はサブ武器である飛び道具を武器庫フォルダの中から選ぶ。
基本的に私の配信は無言だ。それでいて、殆どの配信でマスクをしている。
最初はマスクを外さないことから不審だと批判や嗤う声が大きかったが、誰になんて言われようとも顔出しなんてしたくなくて、マスクを外さず、ただお小遣いを稼ぐために配信を続けていた。
自分がモデル並みに可愛いとは思ってない。ブサイクじゃないかも知れないが、顔を出して何かを言われるのが怖かった。
まぁ、それも杞憂に終わったのだけど……。
チームに入った時、自己紹介をする特は顔出しを強要されてマスクを外したが、視聴者から特にツッコまれることはなかった。
けれど顔を出すのはやっぱり苦手で、公式な場面でしか顔出ししないと決めている。
今では実力が認められて、毒舌も受け入れられて来たから、フォロワー数、視聴者数ともに5万人を超える有名人になっている。
何より毎回スタンバイしていたかのように配信開始直後から見てくれている人が大勢いるのだ。
(お陰で毎月のノルマが達成出来てるから嬉しい)
そんな私_
eスポーツで日本代表として世界大会に出たことが何度もあるくらいには、業界では上位に食い込む有名人である。
この部屋もチームメンバーが暮らすシェアハウス内に存在するトレーニングルームで、壁に沿うように置かれたPCの一つを使用している。
ブラック✕グリーンのこの機械は私専用のPCになっていて、付属のコントローラやキーボードは10年以上付き合ってきた愛用機だった。
モニターでは今日の戦いで使う銃器を選び終え、ゲートへと向かった。
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