春人side
それから東京に帰ることなく、実家にしばらく休みに入った。東京の先生から授業の代わりのプリントが送られてきた。それを解いているが、全く解く気なんて出ず、ずっと頭がぼんやりする。
俺の本当の夢は、桜日と後でもずっと一緒にいたかった。退院したら、きっと離れ離れになってしまうから。その口実が欲しかっただけなのかもしれない。
家にいても集中できないので、気晴らしに外に出ることにした。民家にある小さな桜が満開に咲き誇っている。
もう、桜が満開の季節になってしまった。桜日を置いて。俺の頭の中は桜日ばかりが溢れていた。少し歩くと、桜日と十年間一緒に闘病生活を送った病院が見えてきた。
そういえば、桜日の病室は片付けられているのか。桜日が亡くなってしまってから、ずっとバタバタしていたし。少し様子を見に行くことにした。
受付を済ませ、二階へ上がる。桜日の病室はシンとしていて、誰もいなかった。
「あ、春人くん!」
声をかけられ後ろを向くと看護師の河北さんだった。
「桜日ちゃんの病室、もうそろそろ片付けたいんだけど、誰も病室に来なくてね…。きっとショックで来れないと思うんだけど…。もし良かったらベッドの隣にある棚とかまとめて置いてくれないかしら?」
「ああ、いいですよ。やっておきますね」
「ありがとう。お願いね」
そう微笑んで河北さんは真っ直ぐ歩き始めた。目が少し光って見えたのは、上の電気の反射なのか、涙をためていたのか。
僕は静かに病室に入った。
いつも桜日の大きな声が響いていた病室。まるで空っぽになってしまったみたいだ。
埃が舞いそうなので、窓を開けた。
窓のすぐ前に満開の桜が見える。この季節は二人でお花見していたなぁ。
ベッドの隣にある棚に近づき、中に入ってあった本を取り出す。
「ほとんど漫画じゃん…」
ふと、笑みがこぼれる。そういえば、俺と桜日が仲良くなったきっかけは漫画だったな。
ジャンルはほとんど少年漫画。棚に入っているのも、少年漫画ばかりだった。十年も経っているのに、何も変わっていないな。
漫画の横にはスケッチブックが三冊入っていた。桜日は絵を描くのも好きだった。スケッチブックも取り出す。少し気になってペラペラとスケッチブックをめくる。
一冊目は小学校低学年に描いたものだろうか。クレヨンでぐじゃぐじゃと描かれている。
二冊目は鉛筆で濃く縁取られた絵に色鉛筆で描かれていた絵がたくさん描かれていた。中に男の子と髪の長い女の子が描かれていたので、もしかしたら俺たちのことだろうか。
三冊目は最近のものだろうか。光の反射まで、綺麗に描かれている。中は桜の花だったり、小さな花がたくさん描かれていた。桜日らしいなと思い、笑みがこぼれる。絵を描いている姿は見たことあるが、その絵を見せてくれたのは今までで一度もなかった。なんか申し訳ない気持ちと感動が心の中で混ざり合う。
スケッチブックを閉じようとした時、灰色でかかれたものがチラリと見えた。最後から二ページ目を見ると薄い灰色でかかれたものがあった。
これは、文字だ。顔を近づけ書かれている事を読む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます