春人side
先生は無言で首を振った。
もう、桜日は亡くなってしまったのか?
前会った時は元気だったのに。…どうして。
桜日の手を掴んだ。いつもより冷たく、冷えていた。
目頭が熱くなって鼻の奥がツンとした。
桜日…、呆気なさすぎるよ…。
そう思った瞬間涙が次から次へと溢れてきた。そして声を荒げて泣いた。周りに先生たち、母さんたちがいるのも気にせずに。この世の無情さを感じながら。
俺は自分のことばかり考えていて、十年もずっと一緒いた桜日の異変にも気づいてやれなかった。
あのいつものやり取りが最後だなんて、思わなかったよ。俺は二週間前の自分を恨んだ。どうしてあの時、気づいてやれなかったんだ。あまりにも、呆気なさすぎる。これからも、年老いても、俺の隣には桜日がいると思っていたのに。
悔しくて悔しくて、やりきれない。
「先生、死因は何なんですか」
そうまだうつむいていた先生を見上げた。
「心臓のがんが、他の臓器に転移していたんだ。桜日ちゃんの心臓が持つのは時間の問題だったんだ。余命のこと、春人くんには言わなかったみたいだね」
「余命…?」
「一ヶ月前の検診で余命一ヶ月と宣告したよ。桜日ちゃんなら打ち勝ってくれると信じていたが…」
「桜日…、どうして言ってくれなかったんだよ…」
もう動かない彼女を見て、彼女の死が現実だということが頭の中で理解し始めた。もう、桜日はどこにもいない。そう痛感してしまい、もっと涙が溢れてきた。
桜日のお葬式はあまり人がいなかった。
桜日の友達は病院の子ばかりで、お葬式に来るのは難しかったのだろう。
遺影の桜日は笑っていた。その下にはピンクの花。桜日が好きそうな花だった。
桜日がここにいたら、笑いながら何泣いてんだよと、俺の背中を叩くだろう。そう思うと、桜日は生きているんじゃないかとまた思ってしまう。ガラっとしたお葬式場でお葬式を終えた。
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