桜日side
それから、また春人と他愛もない話をしていると看護師さんが春人を呼びに来た。すぐ帰るからと私を自分の病室に置いて行ってしまった。
病室を見渡すと、ベッドの隣にある小さな本棚には分厚い参考書などがぎっしり並べられていた。
いつも何を考えているのか分からない春人だけど、ちゃんと将来のこと考えていたのだと実感する。
はぁとため息を吐き、何ない白い天井を見上げた。
少しぼっとしていると、春人が帰ってきた。やけに機嫌が良さそうだ。
「桜日!俺来週には退院できるって!」
そう身を乗り出して春人は言った。
「来週!?え!マジで!?」
「マジでマジで!」
春人は私の手を掴んでそう言った。
「そうとなれば、早く準備しなきゃな」
そう言って手を離し、ベッドの隣にある机の整理をし始めた。春人は嬉しそうだが、私は寂しさの方が大きかった。
「寂しくなるね」
嬉しい事なのに、こんなことを言ってしまう私は空気を読まないガキンチョと一緒だな。
「大丈夫だって。週一ぐらいにはお見舞い来てやるから」
そう振り向いてニカッと笑った。私もつい笑みがこぼれてしまう。
「約束だからね」
「おう!」
春人は整理をしながら言った。大きな背中には、希望とかがいっぱい詰まった羽が生えているように見えた。
「じゃ、私自分のとこに帰るわ。片付け、大変だったらまた声かけて」
「分かった、ありがと」
名残惜しく、その背中を見て隣にある自分の病室へと戻った。
「大変お世話になりました!」
深々と頭を下げている春人のお母さんとお父さんがいた。私も病室からちらっと覗いてみる。看護師さんと話し終わったのか、二人がこちらへと歩いてきた。
「桜日ちゃん、春人と仲良くしてくれてありがとうね。十年の間も…。この子、病院に来た時から周りに同い年ぐらいの子がいなくてね、ずっと一人だったのよ。私たちも仕事で毎日来れなかったし…。桜日ちゃんにはなんとお礼を言ったらいいか…」
そう頭を下げられた。頭を下げられるとは思いもしなかった。
「いえいえ!!私も春人くんと友達になれて良かったです!私も両親が忙しくてあまり来ていなかったですし、春人くんと毎日話せて楽しかったですよ!こちらこそ、ありがとうございました!」
精一杯、笑顔を作ってそう言った。
ご両親は目に涙をためて、もう一度頭を下げた。また、先生に話しかけられてどこかへ行ってしまったけど。
春人はこの病院の子供たちに囲まれて、手いっぱいに何かをもらっている。退院祝いだろうか。そういえば、春人に何も用意してない。
はっとすると、春人が私に気づいたようでこちらに向かって歩いてきた。
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