桜日side
春人の病室はいつも綺麗だ。私みたいにベッドの上も机の上も散らかっていない。ドアのすぐ近くにある小さなテーブルと椅子に座る。
「俺さ、退院できたら大学行こうと思ってるんだ。大学行って医者になりたい」
春人らしくない真面目な言葉が春人の口から出て驚いた。
「そ、そうなんだ…。はは、急に真面目なこと言うからびっくりしたわ。お医者さんかー、うん、春人に合ってると思う」
うんうんと頷きながらそう言った。
「だから高校卒業の試験受けて、大学受験も頑張るよ」
「たしかに、春人勉強頑張ってたもんねー…。関心関心」
「いや、桜日が真面目にしなかったからだろ。せっかく先生がきて教えてくれてたのに、いつも途中で寝るか飽きたーってゴロゴロし出すじゃん。桜日、退院したら働くとこなくなるぞー」
「いいもんねー、病院を家にするから!」
「またそんなこと言って…」
そう呆れたように頭を振りながら春人は言った。
「そうだ、桜日は心臓の医者になったら?俺、肺とか呼吸器官の方の医者になりたいし」
「心臓のお医者さん…」
心臓の先生と言えば担当医の先生を思い浮かべる。あの先生は私の憧れだし…。
「うん、いいね。私もお医者さんになっちゃおう!!」
「桜日ー、医者になるのは簡単じゃないぞー」
「分かってるってば」
「桜日の退院もいつになるか分からないし、桜日は勉強に時間かかりそうだけど、俺は待ってるから。一緒にここみたいな大きな病院で働こうよ」
そう微笑んで春人は言った。
「うん、そうする」
私も微笑み返す。
「指切りしよー!」
「また子供みたいなこと言って…」
「まだ子供だしぃー。そういう春人もまだ子供なんだからね!」
「はいはい」
また呆れた顔をしたけど小指を立てた手を私の前に差し出してきた。そうすぐしてくれるところもまだ春人は子供だ。
こうして私は来ないかもしれない将来を約束した。
余命のことを言ってしまうと、春人はずっと私の隣にいてくれるだろう。
私は余命を言われたのがこれが最初ではない。八年前…十歳の時、余命二ヶ月もないと先生に言われた。私は怖くなって春人にすぐ打ち明け、泣きついた。春人は背中をさすってくれ、ずっと隣にいた。一緒にやることリストも作ってくれた。でも私の体は二ヶ月経ってもいつも通り元気だった。
二人して喜んだけれど、春人も泣きそうな顔をしているをの覚えている。
今は大事な時。春人は夢を叶えるために頑張っている。それを邪魔したくない。きっと退院したら、私のことなんて忘れるだろう。
余命のことは黙っておこう。
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