桜日side
「よう、桜日」
「春人…。 退院おめでとう」
「ん、ありがとう」
春人も笑っていたがどこか寂しそうな目をしていた。
「お医者さんのお勉強、頑張ってね」
「お前も早く退院して勉強頑張れよ」
またお母さんみたいなこと言って…と言いそうになったが、その言葉は飲み込んだ。私の不安な顔に気づいたのか。
「最低でも週一は見舞いに来るから。これで一生会えないわけじゃないんだから。な?」
「うん…」
もっと視線を下げて言った。そうするとまた私の頭をガシガシとかき回した。
「お前らしくないなぁ。寂しいなら、お前もはやく元気になるんだぞ」
「分かってる」
そう笑いながら言うと、春人も笑ってくれた。
病院の出口までみんなで行って、手を振った。いっぱい花を抱えた春人が車に乗る。ただの口約束だけど、本当にお見舞いに来てくれるのだろうか。
「よっ」
「退院した次の日にお見舞いくるんかーい!」
昨日退院したばかりだと言うのに、春人は朝一でお見舞いに来た。
「来ないと桜日泣いてるだろうなって」
「なっ!そこまで泣き虫じゃないしー!あ、春人だって寂しくて来たんでしょ」
「いや、中庭の桜の木、蕾が咲き始めたから。そこは見ときたいなって」
理由も春人らしいが。そう言って春人は中庭へと行ってしまった。窓から見ても蕾なんてないのに。中庭にいる春人を見るといつもより明るい顔で桜の木を見上げていた。
それから一週間、春人は毎日お見舞いに来てくれた。そして、この一週間私の体の中で異変が起き始めた。いつもみたいに元気にならないのかもしれない。そんな不安が積もっていく。
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さよならの香り 藍治 ゆき @yuki_aiji
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