第46話


―――奏太……



奏太はプロデューサーとして活躍する前、やはり母親と同じチェロを学んでいた。



僕は奏太のチェロは才能があると思うし、正直辞めるのはもったいないとまで思っていたが、



母親が亡くなって、彼女の十三回忌を終えたその日から―――チェロを触らなくなった。



なんでも、十三と言う数字が嫌味っぽくて良いからそう決めていた、と奏太は言った。奏太らしいっちゃらしいが。



母親の自殺の原因を作った父親に、まるで当てつけるように、反抗するかのようにチェロの道を捨て、



そして高校生のときアマチュアバンドを結成した。パートはベース。



自信家で目立つやつなのに、昔から曲の表に出ることを好まないやつだった。



チェロにしてもベースにしても音楽を奏でるには必要不可欠な存在だが、やはりヴァイオリンやピアノの方が目立つし、それに比べると華やかさに欠ける気がする。



バンドにしてもギターやヴォーカルを選ばなかったのは、



『縁の下の力持ちって感じで良くね?』と言う理由だった。



結局バンドも高校を卒業するとともに辞め、その後は作詞作曲家に転向したわけだ。



奏太が最初に作った曲は



“Four seasos”



と言う名だった。



ヴィバルディの四季を意識して、その頃僕たち三兄弟と、あの当時よく紫藤家に出入りしていて同じように音楽の道を歩んでいた従兄妹のヴィオラ奏者の弦波ゆずは



カルテットで演奏した。



まだヴァイオリンを捨てる前の話で、みんなほんのお遊びだった。



ヴィバルディの四季とは違い、それぞれにまだ十代だった僕たちが演奏するのはもっとポップで軽い感じの曲。



それを奏太が作ったと言うわけだった。



奏太は僕や花音と違って、その道一本を極めるというより、どんな楽器でもオールマイティにこなせる。その器用な才能が功を奏したのか。



僕にはできない芸当だ。



兄弟ってもこうまで違うもんなんだな。



『でも俺だって、お前に勝てないところはある』



ふと奏太の真面目な台詞を思い出す。










『お前の―――耳だよ。




お前の耳は絶対音感以上の何かが備わっている。







それも一種の才能さ』



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