第45話
「…いえ」
何て答えていいのか分からず思わず言葉を濁すと、
「紫藤さんのお宅は有名な音楽家ですよ。目ん玉飛び出るぐらいの価格の楽器がたくさんあるとか」
お巡りさんが身振り手振りで説明をしている。
それでも山名さんはどこか理解できてないのか、
「音楽家…ふーん、楽器屋さんかい?」とまたものんびり。
「…いえ、そうじゃなくて…」とお巡りさんが説明をしようとすると、
「あっははははは!」
いくつかある熊の木彫りの一つを手に取り、奏太が突如声を上げて笑い出した。
何事か、僕を含めてみんなが奏太を注目する。
「楽器屋さん―――ねぇ。
あそこにある楽器に価値なんてねぇよ。スタインウェイのピアノ?ストラディヴァリ?
名作が聞いて呆れるぜ。
楽器なんて弾けりゃみんな同じだ。今はミキサーに掛ければどんな音でも再現できるしな。
燃えちまえばただの木屑。
弾き手が悪けりゃもっと最悪。
飾っておくだけで鑑賞するだけなんて、生き殺しだ。もはや楽器としても用をなさない。
それよりも俺にはこっちの木彫りの熊の方がよっぽど価値があると思うがね」
奏太は熊の一つを見せて、挑発的ににやりと笑う。
「見ろよこれ、みぃんな表情違うんだぜ?悲しそうなのや、爆笑してるのもあるし。
あ、これ……ちょっと疲れてる??」
奏太は熊に夢中だ。
「そうかい、そうかい。良かったらおまけしておくよ」
山名さんは機嫌良さそうににこにこ。
「こうやってさ、手にとって木のぬくもりを直に感じれて、近くに置いてずっと
可愛がるんだ。
その方がよっぽど
価値がある」
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